一言ヒーロー



「あ、悪い」

軽く肘がぶつかった。
たぶん、肘だったと思う。

それほど強くはなかった筈だけれど、こてんと後ろへ倒れたみょうじに手を差し出せば、華奢な指が緩く掴んできたので、そのまま引き起こしてやる。同じ人間とは思えない軽さに一瞬驚いて、けれど、空気を渡る落ち着いた声に引き戻された。


「ごめん。ボーっとしてた」
「いや、俺も見てなかった。悪い」


再度謝れば、みょうじは小さく笑う。


「背、高いもんね」


たぶん、何でもない一言だったと思う。
きっと"私なんか視界に入らないでしょ"の意味で紡がれた言葉。女子の平均よりも随分と小柄だから、たぶんそう。
けれど、身長のことを気にしている俺からすれば、それは沈んでいる部分をスッと掬ってくれたような、そんな感じがして、なんとも言いようのない感覚に、咄嗟に反応が出来なかった。別にクラスの女子からだって言われることなのに、どうしてか響き方が違う。


「ありがと。じゃあね」
「おう」


みょうじは、ポンポン、と俺の肘あたりを叩いて席に戻っていった。
机の中の物をカバンにしまっているあたり、帰るらしい。その華奢な背中をほんの少しだけ眺めて、妙な余韻を引きずったまま、部室へと足を進めた。