心臓終了のお知らせ



駅前のバス停で、かっこいい人がいるなあと思ったら、松川くんだった。私に気付くなりひらひら手を振ってくれた緩やかな笑みに、心音が跳ね上がる。白いTシャツに黒のスキニーなんてシンプルな姿が、とっても似合っていてかっこいい。そもそもスタイルが良い。

少しの気後れを胸に「待たせてごめんね」と駆け寄れば「全然待ってないよ。私服のみょうじさんも可愛いね」って、百点満点なお返事をくれた。まだ会って数分なのに、きっと夏の暑さだけではないだろう熱がせり上がって、もういっぱいいっぱいだ。隣を歩けるだけでも死ぬんじゃないかってくらいドキドキするのに、恥ずかしくって顔が上げられない。

そんな中、するりと握られた手をかろうじて握り返せば、松川くんが吹き出した。


「わ、笑わないでよ……」
「ごめん。可愛いなと思って」


くすくす笑う姿でさえ、私の胸を高鳴らせるには十分なのだから困る。まるで、全身が心臓になったみたいだ。繋いだ手から、このうるさいくらいの鼓動が伝わってしまわないか気が気じゃない。だって仕方ないでしょう。中学の頃からずっと一途に温めてきた恋心が、やっと報われた初めてのデートなのだ。


「松川くんと違って慣れてないんです」
「俺も慣れてないよ」
「うそだ……モテるの知ってるもん」
「えー。ずっと俺のこと見てたから?」
「ぅ、」
「ぷふ…っ」
「か、からかわないでってばぁ…!」


顔を逸らして肩を震わせる松川くんの肘をぽふぽふ叩く。本当に、私ばっかり余裕がなくて恥ずかしいからやめてほしい。

それでも、セットした髪が崩れないよう控えめに撫でてくれる大きな手だとか、いつもより優しい眼差しだとか、「今日は楽しませるから許して?」って悪戯な声だとか、やっぱり全部が好きで幸せで、怒るに怒れなかった。いっぱい許すから、たくさん楽しませてください。