くだらないはなし



「治さ」
「おん」
「私のどこが好き?」
「……は?」


聞いてんのか聞いてへんのか分からんような相槌から一変。やっと振り向いた治と目が合った。

めっちゃ訝しげな顔しとるけど、そこは敢えてスルーして「ええから教えてや」って先を促す。納得させられるような理由はもってへん。ついこないだ、彼氏持ちの女子勢でご飯行ったらそないな話になったもんやから、ちょっと気になっただけに過ぎひん。


「あー…」って唸った治は、考えるように顔を伏せた。


「いっぱい食うとこ」
「おん」
「あと美味そうに食うとこ」
「……おん」
「ほんで好き嫌いないとこ」
「なあ待って?何でそんな食べる関係なん?顔が好きとかこんなとこが可愛いとかないん?」


たいがいのことは何でも許容出来る私も、さすがに黙ってられへんくて口を挟む。なんやめっちゃ大食いみたいに聞こえるけど、正直周りの子らよりも食べへんで私。

そう尖った治の口を摘んだったら、拗ねたようにそっぽを向かれた。


「やって、言うたかてお前信じへんやんけ。俺が告った時に可愛い子他におるやんって断った奴誰や思てんねん」
「いや私やけどもやな……」
「いっぱい食べる君が好きってやつや」
「えー、デブってこと?」
「ちゃうわアホ」


溜息の後、遠慮なく全体重でのしかかってきよったデカい図体に眉が寄る。当然、しっかり厚みのある運動部男子を帰宅部な私が支えきれるはずもなく、後ろのベッドになだれた。

ぎゅうって抱き込まれて、耳にかかる吐息。殆どゼロな距離を認識した途端、顔に集まる熱と一緒に心臓がうるさなった。「重いねんけど」って減らず口をたたけば、そんなん微塵も気にせん治は「全部好きや」って、やっぱり嘘みたいなことを耳元で喋りよる。


「私そんな可愛ないで」
「俺からしたら可愛えねん。もう信じらんでええから素直にお礼言うてや」
「有難う?」
「そう。それでええねん」


ぐりぐり擦り寄られて、せっかくのチークが無残によれた。