ヤキモチ妬きさん



「なあなまえ」
「んー?」
「こないだ男と出掛けとったやろ」
「……はあ?」


唐突に持ち出された覚えのない話題に、吸いかけのストローから口を離す。珍しく二人でお昼に行こうなんて誘いに来たもんだから、何かあるだろうなとは思っていたけれど、まさかそういう話だなんてビックリ。

ちらりと寄越された視線が床へ落とされる。怒っているのか、悲しんでいるのか、ただ確認したいだけなのか。なんだかよく読み取れない横顔に、またビックリ。


「見間違いとちゃう?」
「アホ。俺が見間違うわけあるか」
「ええ、ほんまに? いつ見たんよ」
「先週の土曜」
「どこで」
「モールん前。髪巻いてベージュのコート着とったやろ」
「んー……待ってな。思い出す」


切ない。顔が殆ど同じ作りの治にすら流されず、こんなに侑一筋で生きているのに、まさか二股を疑われているのだろうか。なんて思いながら、必死に記憶を遡る。


先週の土曜日と言えば、バイトも部活もない一日オフだった。たっぷり寝ようと思っていたのに、なぜかいつもの時間に目が覚めて、暇だしたまには化粧の練習をしようってことで洗面台を長時間占領した気がする。そうだ。そうしたら弟が起きてきて、バッシュを買いに行きたいって言うものだから、じゃあショッピングモールで買い物しようって話になったのだ。

完璧な顔に合わせて髪を巻いて、寝惚け眼の弟と一緒に出掛けた。そうだそうだ。なんだ。男ってあれのことか。まあ小学校からバスケをしている甲斐あって、図体だけは無駄にデカい。たぶん侑と同じかそれ以上。しかも誰に似たのか面が良い。勘違いするのも無理はない。って言うか侑、私のことそんなに好きなのか。そっか。


全部思い出したら急に可笑しくなって笑ってしまえば、口を尖らせた侑が視界に入り込んできた。「何がおもろいねん」って不機嫌そうな声。私の手を握る大きな手は、心なしか力が強い。


「思い出したんか」
「おん。あれやろ。サラサラストレートの茶髪やろ」
「せや。お前と並んどって巨人みたいやった奴や」
「巨人て」


茶化すような言葉とは裏腹に、どんどん強くなっている握力に苦笑する。逸らされない視線は存外真剣で、あんまり意地悪するのも可哀想かな。勿体ぶりたい気持ちを抑え、正直に伝える。「なんやったら紹介しよか?」ってからかったら、間抜けな顔を一気に赤く染め上げて「要らんわ……めっちゃ恥ずいやん……」と、そろそろ離れていった。




【夢BOX/宮侑にヤキモチ妬かれたい】