彩やかに彩れ



好きとか嫌いとかそんなんやなくて、なんとなく。ほんまになんとなく、居心地ええなって思うんが北の傍やった。と言うか、居心地ええなって思った時、いつも傍におるんが北やってことに、最近気付いた。たぶん北もそう。三年間奇跡的に同じクラスで、席が近かったり班が一緒やったり。自然と会話は増えたし、お互い知ってることも多なった。

そんな折、北から「ちょっとええか」って、お昼に誘われた。




「すまんな。時間取ってもろて」
「全然ええよ。何かあったん?」
「そういうわけやないんやけど……まあ座ってや」
「お邪魔します」


お言葉に甘えて、示されたパイプ椅子に腰をおろす。散らかっとるイメージが強いバレー部の部室は意外と綺麗で、きっちり躾てるんやろうことが安易に想像出来た。


向かいに座った北にならって、教室から持ってきたお弁当を広げる。何やかんや知り合って長い。下手したら友達よりもよう喋ってんとちゃうかってくらいの仲やのに、ご飯を食べるんも部屋に二人っきりなんも初めてで、ほんのちょっとの緊張が顔を出す。けど、合わせた訳でもない「いただきます」が絶妙にハモったせいで、つい笑ってしもた。「変なやっちゃな」って目を丸めた北もちょっと笑っとって、一気に空気が和らぐ。


お婆ちゃんの手作りなんやっけ。おん。めっちゃ美味しそう。美味いで。

なんて適当な雑談を楽しみつつ、ちょくちょく挟まる沈黙の間に箸を進める。予想通りというか何というか、北の食べ方は引くくらい綺麗やった。それにしても、さすが運動部男子。脂っこいもん食べれませんみたいな澄ました顔しとるわりに、結構よう食べる。お弁当箱がそもそもデカい。って眺めとったら、卵焼きを一個くれた。とろっとしてて、甘くて美味しかった。




「で、ほんまに何もないん?」


お茶を飲んで、ほっと一息。

目が合うなりゆっくり瞬きをした北は、簡易的な謝罪と共に頷いた。なんや寂しいような物足りひんような感覚は「みょうじとやったら、ゆっくり出来るやろなあ思て」って言葉に、あっさり吹き飛ぶ。

俯きがちなんは、ちょっと恥ずかしがってるってことやろか。初めて触れる何とも言えん表情はめっちゃ新鮮で。そう言えば、一年の時は能面みたいな無愛想さやったと思い返す。殆ど毎日会うて、こんだけ一緒におってもまだ知らん顔があるやなんて。


「おもろいなあ、北って」
「?」


不思議そうに丸まった綺麗な目。笑ってみせたら、その口角がほんの少し緩まる。

こうやっていろんな一面を知れるんは、やっぱり私が、北にとってそこそこ好感の持てる立ち位置におるからやろう。
ふつり、ふつり。芽を出すんは、私だけやったらええなあって、独占欲にも似た想い。


好きとか嫌いとかそんなんやなかった筈やのに、北が好きなんやって気付いた。