他校、電車、両片思い



ガタンと車体が揺れて、体が傾く。とはいえ電車通学も三年目。いい加減慣れてしまった振動に遊ばれることはない。そう分かっているはずなのに、難なく背中を支えてくれた赤葦くんは、今日も優しくてかっこいい。

「ありがとう」って見上げれば「どういたしまして」と見下ろされ、自然と交わる視線。なんだか恥ずかしくなって誤魔化すように笑ってみせれば、彼も小さく微笑んでくれた。綺麗な人だなあって胸が鳴るのは、これで何度目か。


「今日は大荷物ですね」
「そこそこね。後輩が貸してって言うから持ってきたの」
「ギター…ですか?」
「うん」
「そう言えば、軽音部だって言ってましたね」


何でもない話を覚えていてくれたことに、じわじわ嬉しさが募っていく。こんなに近くで話せるようになるだなんて、まるで夢みたい。だって、他校生の男の子に話しかけられるほどの度胸は持ち合わせていない。この車両で時折見かける姿を遠目に窺うだけだった。

彼がパスケースを落とした二週間前。勇気を出せたのは、きっと奇跡に近い。お礼がしたいと引かない赤葦くんに、半ば押し切られる形で連絡先を交換したあの日から、ずいぶんと距離は縮まっているような気がする。


「後輩って男ですか?」
「え?」


意外な質問に思わず聞き返すと、少しだけ細められた瞳が横へ逸れていった。もしかして。

ふつふつ浮かぶ淡い期待。恋ってむずがゆい。ドキドキして好きって言ってしまいそうで、こんなにももどかしいのに、ちょっと怖い。


言葉を探しているような感じの赤葦くんに「女の子だよ」と紡ぐ。「そうですか」って返事と共に戻ってきた眼差しは、どこか安堵しているように見えた。



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