魚を捌く姿を見ていたい



鱗が飛ぶかもしれないので下がっててください、なんて言葉を無視して隣に立つ。なまえさんって窘められたって何のその。だって気になるじゃない。いつも涼しい顔で汗を拭うあの美少年が、釣りたての魚を捌く姿なんてそうそう見れたもんじゃない。


「あんまり見てて気持ちのいいもんじゃありませんよ」
「血とか内蔵とかってこと?」
「はい」
「大丈夫だよ。赤葦の顔見たら気持ち悪さ吹っ飛ぶから」
「ほんと俺の顔好きですよね」
「顔だけじゃないよ?」
「知ってます」


テコでも動かない私に小さく苦笑した赤葦は、仕方ないなあって顔をしつつもビニール袋に魚を入れて、鱗が飛ばないようにしてくれた。別に飛んだっていいのに、気遣いの出来る男は一味違う。まあ別に私の為だけじゃないけどね。シンクの掃除って意外と大変だもんね。


手と魚を洗い、胸ビレと腹ビレに沿って両側から包丁を入れる。頭を落とした切り口から裂いていき、刃先で器用に中身を引き出しては三枚におろしていく包丁捌きは、最早プロだった。なんと言うか手際が良い。もう一度言う。手際が良い。さすが和食好き。こんな男前が、もしかしたら未来の旦那さんになるかもしれないの?え、何それ素敵。


「……なまえさん」
「ん?」


つい見入ってしまっていたせいか。名前を呼ばれて初めて、ずいぶん赤葦へ寄っていたことに気付いた。ごめんね。「腕が動かしづらいです」って控えめな抗議に謝りながら、一歩離れる。涼しげな目元をゆるやかに和らげた赤葦は「後でくっつきましょうね」と、魚に向き直った。

私の方が年上なのに、なんだかそう思えないのはいつものことだった。



【夢BOX/魚を捌く赤葦を見ていたい】