スウィートラバー



テストは赤点すれすれ。日本人のくせに日本語が不自由で、本能のままに生きて動いて息をしているような突き抜けてアホなバカだけれど、バレーを楽しんでいる時の木兎は、世界一かっこいいと思う。


「木兎」
「っ、なまえ!!」


はっと振り向いた嬉しそうな笑顔につられ、思わず口角が上がる。再度私の名前を呼びながら小走りで寄ってくる姿を微笑ましく思っていれば、周りの視線なんてお構い無しに、それはそれは力強く抱き締められた。「ちょ、木兎さん」と、赤葦お母さんの窘める声がする一方、木葉や猿杙の冷やかしが耳に痛い。

汗くさいって言ったら凹むんだろうなあ、なんて、大きな子供みたいな木兎の背中を叩く。相変わらず図体だけは無駄にデカい。息がしづらい。


「見てた!?見てた!?」
「うんうん見てた見てた。ばっちり見てたからちょっと離れようね」
「チョーかっこよかっただろ!?」
「うんうんちょーかっこよかったよ。だから離れようね木兎。ほら、皆見てるから」
「見せときゃいーじゃん!俺はなまえがいーいー!」
「んんん」


うりうりと擦り寄られては喋りにくくて仕方がない。まあ誰に見られようと構わないけれど、やっぱり私達よりも木兎の後ろで待ってくれているメンバーに申し訳が立たない。困っている赤葦お母さんなんて特に可哀想だ。


「私は木兎のスパイクが見たいなー」
「マジ!?」
「まじまじ。もっと見せてくれる?」
「うおっしゃ!あかーしー!トス上げてくれー!」


やれやれ。漸く離れてくれた木兎は、赤葦を連れてコートへと戻って行った。キレッキレのクロスを打ち分けたり、強烈なストレートで体育館を轟かせたり。その都度、キラキラした瞳がこちらを向く。ちゃんと見てたよって意を込めて軽く拍手を送れば、得意気な笑みが寄越された。やっぱり木兎は、バレーをしている時が世界一かっこいい。