独白


中学生の頃、テレビで初めて彼を見て、凄い男の子だなあ、と思った。

ヘドロ状の悪い人に取り込もうとされているのに、あんなに長時間耐えられる人はそういない。私もあんな風に強い心をもたないと、と誰もいない部屋で拳を握ったことを覚えている。それから私は、私の個性と向き合うことが出来たのだ。

そんなきっかけをくれた張本人が、高校に入学した途端クラスメートになったのだから、人生何が起こるか分からない。

大した接点があったわけではない。消しゴムを拾ってあげたり、気まぐれに勉強を教えてくれる程度。ただ、近くで見た彼は、テレビの中よりもずっと背が高くがっしりとしていた。


目で追えば追うほど、私の心は惹かれていった。

何でも人並以上にこなせて、芯がとても強い。それなのに言葉選びが下手で、言動がいちいち荒くて。
それが皆は怖いとか気に食わないとかいうけれど、私は人間味が感じられて良いと思う。才能マンはいても、完璧な人なんていない。彼に教えられることがたくさんあった。


好き。

そう伝えることに、抵抗も緊張もなかったように思う。別に付き合えなくたって構わなかった。ただ言葉にして伝えてみたかっただけの自己満足。
案の定面倒くさそうに眉を寄せた彼は、恋人にも友達にもなってはくれず、直ぐに帰ってしまった。

明日から気まずいのかなあ。もう勉強を教えてくれないのかなあ。なんて少しは気落ちしたけれど、結局それは杞憂に終わり、挨拶をすれば「おう」と返事をしてくれるし、話し掛ければ応じてくれる。
耳郎ちゃんには「あんたら付き合ってんの?」なんて言われるくらい、皆から見た爆豪くんは私に対して暴言を吐かないし、無視もしないようだった。

恋人も友達も"面倒くさい"の一言で断られてしまったけれど、少なからず嫌われてはいないらしい。それならまあ、遠くから眺めているだけじゃなくて、たまには近くにいてもいいのかな、と私の好きなようにすることにした。

振り向いてもらえなくたっていいのだ。
たぶん、彼にとって私はモブその他の中の一人だろうから、名前を覚えてもらえるくらいの成果が出れば充分嬉しい。元々私も気まぐれだった。例え友達でも、傍にいて欲しくない時もある。


恋心にかまけている暇なんてないくらい日々は目まぐるしく変わって、敵連合の襲撃があったり何だかんだで全寮制になってから、漸く落ち着いた頃。
私の気まぐれが爆豪くんのタイミングと合うのか、いつの間にか部屋に出入りさせてもらえるようになって、作ってくれたらしい合鍵をもらった。
呼び方も"爆豪くん"から"勝己"に変わった。初めて教室でその名前を呼んだ時、顔を真っ赤にして動揺したお茶子ちゃんに恋人関係を聞かれて否定すると、クラス中の皆に心底驚かれたことは記憶に新しい。


そう。付き合ってはいない。
恋人ではない。私と彼を繋ぐ肩書きは、せいぜい同級生程度。


それでも、私が傍にいる時だけ、まとっている空気がほんの少しだけ穏やかになる勝己が、やっぱり好きだった。