私を象る片鱗


※「君を象ってきた片鱗」の続き




夕飯は光己さんが麻婆豆腐をご馳走してくれるらしい。辛いものが好きな爆豪くんを思ってのチョイスだろう。

ちょっと癖のある性格の爆豪くんだけれど、ちゃんと愛されて育ってきたことがうかがえて頬が緩む。ババァなんて言いつつも、緑谷くんに対するようなトゲは感じられなかった。


「にしてもちっちゃいねー。勝己の肩くらいじゃん。何センチ?」
「150ないくらい…ですね」
「かーわいー」


爆豪くんと変わらない背丈の光己さんにうりうりと頭を撫で回される。どうやら私の小ささがお気に召したらしい。
あまり自分の低身長が好きではないのだけれど、爆豪くんもこのサイズ感を気に入ってくれている節があるので、まあ良かったなと思う。


「で、いつから付き合ってんの?」
「うっせぇな。んなことより部屋片付いたんか」
「片付いたから来たんでしょー。あんたから告白したの?それともなまえちゃん?」
「どっちでもいいだろ。行くぞ」


グイッと腕を引かれ、体が傾く。
「ちょっと勝己コラ!」なんて光己さんの声に素知らぬ振りの爆豪くんは、私のキャリーケースと私を連れて、二階に上がった。


「爆豪くん、待って、コップ洗ってない」
「あ?ババァがやんだろ」
「まだプリンも言えてないし」
「晩飯ん時言やぁいいだろーが。てめえはババァと喋りにわざわざ来たんか?」


イライラしてるなあ、と小さく苦笑する。
連れられるままに爆豪くんの部屋に入ったところで手が離された。すぐさま私に背を向けてベッドへ寝転がる姿は、構ってもらえずに拗ねている子犬のようだ。

こういう時、爆豪くんは言葉を要しない。 でも、互いが必要とするものがいつも同じであることを、互いに知っていた。

ベッドの脇に腰をおろして、意外と手触りの良い髪に指を通す。
言葉はなく、声もなく。
ただ、この体温が伝わりさえすれば、私達はそれでいい。


のそりと動いた彼の手が、私の手を捕まえた。こちらを見上げる赤い瞳はやけに静かで、もう苛立ってはいない。
安堵したのは、ほんの一瞬。首裏に回されたもう片方の手に引き寄せられる。あ、と思った時にはもう、随分と近い距離に爆豪くんがいて、カサついた感触が唇に触れた。


「…目ぇ閉じろ」


囁かれるような、穏やかな低音。
慌てて目を瞑れば、また、触れるだけのキス。顔が熱い。
掴まれたままのその手を握れば、ちゃんと握り返してくれる優しさに鼓動が速まっていく。心臓が痛いほど高鳴って、もう、何度目か分からない。

おそるおそる瞼を開ければ、目前の彼は満足気に笑った。


「何つー顔してんだ」
「っ…わ、かんないよ」


胸がいっぱい、とはこんな感じだろうか。
全身の血が沸騰したみたいに熱くて、頭が回らない。私、どんな顔してるんだろう。嬉しさと恥ずかしさが押し寄せて、鼓動がうるさい。爆豪くんがかっこ良くて苦しい。

耐え切れずにシーツへ突っ伏すと、大きな手が、いつも通り、少々雑に頭を撫でてくれた。