見つけられたわたし


入学初日から数人と話が出来て、先行きは上々。偏差値が高いからか、ヒーロー関係を志しているからか、みんな浮き足立ってはいるけれど、どこか落ち着いていて中学みたいにごちゃごちゃしていない。

一言で表すなら"過ごしやすそうな環境"だった。

私は別に、ヒーロー関係の仕事に就く将来を夢見ているわけではない。皆からしてみれば、爆豪くんと同じ学校に行きたいなんていう、とても不純な動機で受験してしまったのだけれど、蓋を開けてみればなかなかの成績だったようで、先生がとても褒めてくれた。

穏やかな毎日。
窓の外から吹き込んでくる風は少しあたたかく、いろんなものがキラキラして見えて、とても眩しい。

一緒にお昼を食べる友達も出来た。それでも、心にぽっかり穴があいたように、私のことを外から見ている私がどこかにいて、脳裏に焼き付いている鮮烈な赤色を恋しく思う。

ヒーロー科は違う時間割なのか、登下校で目にすることはなかった。そんな折、生徒の波に紛れて一人で校門に向かっていると、突然後ろから肩を引かれて体が傾く。ぽすんと受け止めてくれた誰かから香った甘いそれは覚えのあるもので、胸の奥が熱くなった。


「……」
「……」


目が合ったはいいものの、何からどう話せばいいのか分からない。まるで時が止まったような錯覚。ざわざわとした喧騒が遠のいて、何も聞こえなくなる。

久しぶりに見た爆豪くんは、少し背が伸びたように感じた。


「…ヒーロー科、おめでと」
「おう。普通科か?」
「うん。あ、合格通知来た時に伝えようと思ったんだけど、学科違うから発表時期も違ってたらとかいろいろ思っちゃって、お母さんには伝えたんだけど、爆豪くんには伝えに行けてなくて、あの」
「わぁったからちょっと落ち着けバカ」


急ぎ足で繋ぎ合わせた言葉を、文句の一つも言わずに聞いて宥めてくれる彼の後ろから「バクゴー、先行くなって!」と知らない声が聞こえた。

早く謝らないと。そう焦る心とは裏腹に口をついて出たのは「ブレザーも似合うね」だった。
途端に丸まった赤い瞳が、自分の言葉に驚いている私に気付いたのか、ふ、と笑う。わしわしと雑に頭を撫でてくれた手は相変わらず大きかった。いつだって安心を与えてくれるこの手が、昔から大好きだ。

少し俯いて撫で受けていると「お前さあ、急に走り出されるとビビんだけど…」と、さっきとは別の知らない声が頭上から降ってきた。どうやら二人いるらしい。
爆豪くんの友達だろうか。挨拶をした方がいいのか、離れた方がいいのか。

判断がつかずに、そっと爆豪くんを見上げる。既に私を見ていない彼の眉間には、これでもかというほどシワが寄せられていた。


「爆豪が女子と!?しかもちっちぇえ可愛い天使…!」
「えっ、まさか彼女!?」
「チッ、騒ぐなぶっ殺すぞ!」
「見た事ねえし他学科?紹介してー」
「するわけねえだろが!」
「初めましてー爆豪のクラスメートの上鳴です」
「俺切島です。よろしくな」
「何勝手に話しかけとんだ!燃やすぞクソが!」
「なんだよマジの彼女!?」
「ちげえわ!」


右手の平を上に向けて威嚇する爆豪くんにケラケラと笑う上鳴くんと切島くん。
彼らは今にも爆破しそうな爆豪くんを楽しんでいるらしい。中学の時ならもっと周りが焦っていたのに、雄英って凄い。


「はじめまして…」


爆豪くんの影から声を出せば、三人の視線が私に向く。男の子って背が高い。首が大変なことになる前に一歩下がって名乗ると、爆豪くんの舌打ちが聞こえて「行くぞ!」と手を引かれた。

ぽかんとしている二人を放っておいていいのかとか、まだちゃんと話せていないとか、思うことはたくさんあったけれど、久しぶりに繋がれた左手はあたたかく、途端にうるさくなった鼓動の音が伝わってしまいそうで、上手く言葉に出来なかった。