浮かぶ最愛


なんとなく眠れない夜。瞼は重いし、体は疲れている。お腹がすいているわけじゃない。さっき水分補給もしたし、寒くもない。その内眠れるかと瞼を閉じて大人しくしていたけれど、一向に意識が落ちる様子はなかった。元々眠りは浅い方で、全寮制になってから毎日こうだ。

頭に浮かぶのは、彼のこと。そう言えば最近ろくに話せていない。まあ、元々皆の前でイチャつくタイプではお互いないのでスキンシップも言葉も少なめなんだけれど、ちょっと寂しいなあ、なんて。思えば思うほど眠れずにベッドから起き上がった。時刻は午前2時。きっと寝ているだろうけど、明日は休みだし、ちょっとだけ顔を見るくらいなら許されるかもしれない。そう男子棟にある爆豪くんの部屋に向かう。


ノックはしないままドアノブを捻ると、鍵はかかっていないようですんなり開いた。音を立てないように気を付けながら扉を閉めて、ついでに鍵も掛ける。ベッドで眠っている爆豪くんの寝顔は、眉間のシワがないからか幾分幼く見え、思わず頬が緩んだ。相変わらず整った顔立ちをしている。そっと指先を伸ばすと、彼に触れる寸でのところで大きな手に掴まれた。眠そうな赤い瞳。


「……起きてたの」
「今起きた」


大きな欠伸を一つこぼした爆豪くんは「何かあったんか」と真っ直ぐに私を見る。寝起きの声いいなあ、なんて思いながらふるりと首を横に振ってみせたけれど、彼の顔はどこか不満気だ。


「……嘘じゃねえだろうな」
「ほんとほんと。ちょっと寝れないだけ」
「……」
「ごめんね。起こしちゃって」
「分かってんなら責任もって寝かせろや」
「え、」


言うが早いか、掴まれたままの手をグイッと引かれ、自然と傾いた私の体は彼の腕の中へと引き込まれた。

あたたかな体温に包まれ、肺を満たすのは彼の匂い。腰に回された腕は逞しく、しっかり男の子であることを認識させられる。途端に速くなった鼓動の音が伝わってしまいそうで恥ずかしい。別に顔見れたらいいなあくらいだったから、こういうのは想像してなかったから、ちょっと、やばい。嬉しい。


「ば、ばくご、」
「うるせえ」
「や、あの、」
「嫌なんか」
「っ」


いつもより至近距離で聞こえる拗ねたような声にドキリと心臓が跳ねる。喉が詰まって上手く声が出そうにない。代わりに彼の背中へ手を回すと、察したように優しく抱き締めてくれたもんだから心臓が飛び出そうになった。