おひるごはん


午前の授業が終わった昼休み。
ごそごそとカバンを漁って気付く。お弁当がない。仕方ない。今日は何食べよっかなあ、とメニューを思い浮かべながら財布片手に食堂へ足を向けた。

もうお腹はペコペコだっていうのに、相変わらず売り場はたくさんの生徒で溢れかえっていて何も見えない。皆来るの早すぎではなかろうか。成長期にスルーされてしまった身としては非常に生きづらくて溜息が出る。でも頑張るよ。私はチャーハンが食べたいんだ。あと優しいミルクが入ったカフェオレも飲みたい。

いろんな波に埋もれながら、なんとかお目当ての食事をゲットして、さあ次はと席を探していれば「よっ」と肩を叩かれた。振り向いた先には、特徴的な赤い髪。


「切島くん!」
「へへ。みょうじも飯?」
「うん!お弁当忘れたの」
「またかよ!」


明るく笑う彼、切島くんはヒーロー科の生徒で、たまに食堂でお目にかかる。一月前くらいに偶然座った席が隣で、私がこぼしたコーラを一緒になって拭いてくれた優しい人だ。笑った時に覗くギザギザの歯がかっこいい。


「今日は一人なの?」
「や、向こうで爆豪と食ってんだけど、みょうじが見えたから走ってきた」
「おおお、私の為にご飯中断してくれたの…申し訳ない……」
「んなこと気にすんなって!一緒に食おうぜ」


貸して、と私の手からチャーハンとカフェオレが乗ったお盆をさらっていった切島くんは今日もかっこいい。自然と緩む頬をそのままに頷いて後をついて行く。

ツンツン頭の爆豪くんは麺のようなものをずるずる啜っていて「こんにちはー」と挨拶すれば、一瞬だけ視線が寄越された。相変わらず無愛想だし、赤すぎて何の料理を食べているのか分からない。辛いのが好きなのかな。切島くんがいる時は爆豪くんもいるけど、毎回赤い気がする。


「切島くんはカツ丼?」
「おう!」


ああ、笑顔が眩しい。そしてかっこいい。
いつもお肉系を食べているけれど、やっぱりスタミナ消費が激しいんだろうか。ヒーロー科の授業って全然想像がつかない。前に土曜日も学校があるって聞いたくらいだ。まあ、他の科とは色々違うんだろう。

いただきます、と手を合わせてから私もチャーハンを口に運ぶ。
雄英のご飯は何を食べても絶品だから嬉しい。おまけに今日は切島くんに会えたし、とっても良い日だ。


一人喜びに浸っていると「それ美味え?」と切島くんの声が降ってきた。隣を見れば、じ、と私の手元を見ている大きな瞳。
既に彼の器はカラだった。まだお腹すいてるのかな。


「美味しーよ。食べる?」
「えっ」
「はい」


チャーハンをこんもりすくったスプーンを差し出せば、ほんの少し固まった切島くんの視線が泳ぎ出した。

「やっ、えっと、」

焦っているのか何なのか。
言葉にならない声を出す切島くんの首元がだんだんと赤くなっていく。チャーハンを食べたかったわけじゃないのだろうか。
どうすれば、と向かいにいる爆豪くんを見遣れば呆れたように溜息を吐いていた。


「遠慮してねぇでさっさと食えやクソ髪」
「ばっ、」
「あ、遠慮してるの?」


なんだ、遠慮してたのか。
そんなの全然気にしなくていいのに、切島くんは優しさで出来ているのかもしれない。ますます素敵な人だ。

つまらなさそうに机へ頬杖をついている爆豪くんと切島くんの視線が数秒交わって、そうして切島くんの視線だけが私へと寄越される。


「じ、じゃあ…」
「どーぞー」


言うが早いかスプーンを差し出しなおせば、乗っていたチャーハンがぱくりと切島くんのお口へ消えた。咀嚼する度に動く頬がなんだか可愛い。

「もっと食べる?」と聞くと、真っ赤な顔でぶんぶん首を横に振られた。