淡い常夏


暑い。
寒さにも暑さにも弱い私にとって、気温が極端に偏るこの季節はとても生きづらい。寮を出てから教室に入る間でさえ、頭がぼーっとする。最近は長身の飯田くんや轟くんが影に入れてくれているけれど、それでも席に着くと脳内がぐるぐる回っている状態だった。

いつものように目を閉じて、そっとやり過ごす。


「大丈夫か」


落ち着いた声に瞼を押し上げれば、前の席に轟くんが座っていた。
きっと心配してくれているのだろう。普段からあまり表情の変わらない彼だけれど、心なしか眉毛が下がっている。

大丈夫、と乾いた唇を動かしはしたけれど、私の声は彼の耳まで泳ぎ切れただろうか。そもそも声になったのかすら定かではないほど、頭も回らないし聴覚も鈍っている。


「みょうじ」


ひらひらと目前で振られる右手。
あ、ちょっと涼しいかも。

個性を使ってくれているのか、冷気を帯びているその手のひらへ頬を寄せる。ひんやりとした温度が心地いい。だんだんと靄が晴れて、こもっていた周囲の音がクリアになっていく。


「ありがと…だいぶ復活した」
「そうか。良かった」
「個性使って疲れない?」
「これくらい大丈夫だ」
「さすが轟くん…」


一家に一人ほしいね、と笑えば、不思議そうな顔をした彼は「みょうじの部屋に行けばいいのか?」と首を傾けた。毎朝お迎えに来てくれるということだろうか。持ち前の天然っぽさがなんとも可愛らしい。

この際、お言葉に甘えてしまおうか、と考える。

少しだけ申し訳なさが浮かんだけれど、思えば今だって誰かの影に入って登校しているのだから大差はないかもしれない。おまけに轟くんとは、寮を出るタイミングがほぼほぼ一緒。


「じゃあ、学校ある時は下のソファで待ってるようにするね」
「分かった」
「面倒だったり疲れたりしたら言ってね」
「ああ」


しっかり頷いた轟くんに微笑みかけると、少しだけ丸くなった色違いの瞳が、柔らかく細められた。


(「…あの二人何やってんの?」「ずっと轟さんの手がみょうじさんの頬に添えられていますわ」「春やねえ」)