誰かのための


つい先日の教職員合コンで知り合った相澤さんに手料理を振る舞うことになった日曜日。街中のデパートで夕飯の食材を二人で見る。相澤さんは低燃費な人なのか、ゼリーでいい、と顔を顰めた。


「普段もゼリーですか?」
「ああ」
「栄養偏りますよ」
「…いろんなゼリーを食べてるよ」
「いろんな栄養が一つになったご飯を食べる方が合理的ですよ」


私が作りますから、と付け足せば、ほんの少し丸くなった瞳が細められて、頷いた。
相澤さんは見た目ほど怖い人ではない。合コンの時だって、乗り気ではなかった私を途中で帰れるようにと連れ出してくれたのだ。今日はそのお礼である。

相澤さんの家にお邪魔してキッチンに立つ。
野菜を洗って、随分と切れない包丁で千切っていく。


「相澤さん、この包丁全然切れません」
「あー…暫く使ってないからな」
「使わなくてもいいのでせめて研いでください…」
「………善処するよ」


少しおかれた間が気になったけれど、まあやってくれるだろう。
お肉は諦めてお魚にしよう。


「相澤さんは少食ですか?」
「いや、人並みには食べる」
「わかりました」


お米をといで炊飯器のスイッチを入れ、待っている間に和風ドレッシングを作っていく。相澤先生は暫くイスに座って私の様子を眺めていたが、丁度良いタイミングで食器を用意してくれた。
誰かと晩ご飯を食べるなんていつぶりか。実家を出てからというもの、ずっと家ではテレビが友達だった。

それはさておき、ちゃんと相澤さんのお気に召す味になっているだろうか。

律儀に手を合わせてから黙々と食べ進めている彼は、私の視線に気付くなり「美味しいよ」と言ってくれた。