殻を叩いて連れ出すあの子


 いつも緑谷くんは眩しかった。

 なんで? どうして? 自分の個性すら満足に使い切れない彼が、あんなに輝いているのだろう。そう妬んで枕を濡らした夜は数知れず、彼の優しさを跳ねのけたことも一度や二度ではない。
 それでも嫌な顔一つしないで、傷付くことは慣れっこだと言わんばかりに傷だらけの手を差し伸べてくれる緑谷くんは、やっぱり眩しくて目に痛い。ちっぽけな私が、もっとちっぽけに思えてたまらない。
 ねえ、もう放っておいて。これ以上、惨めな気持ちになりたくないの。緑谷くんが構うから、私、どんどん自分でも嫌な人間になってしまう。

 ただ眉間に皺が寄るばかりの日々の昼下がり、皆の輪からはずれた私を追ってきた彼は、遠慮がちに隣に座った。
 大丈夫? 今日暑いよね、なんて振られた世間話が耳に痛い。その程度のことしか思い付けなかったくせに、気まずそうに笑うくせに、そうまでして私を気にかける理由はなんなのよ。


「なんでそんなに優しいの」
「えっ」
「私なんかに構わなくていいんだよ。君が嫌な気持ちになるだけでしょ」


 膝を抱えて、顔を伏せる。

 昔から、どれだけ努力を積み重ねても報われなかった。自分に才能がないからだと分かっていても認められなくて、その度に、自分より秀でた誰かを妬まずにはいられなかった。それもまた間違っていると、分かっていても。

 勝手に傷付いたくせに何度も人のせいにする私が私は嫌いだ。だからいつも友達は作らず、人との間に壁を隔てて独りになる。周りに誰もいなければ、誰も傷付けないで済む。痛いのは私だけで良かった。
 なのに君は、土足どころか丁寧にスリッパを揃えて入り込んでくる。


「嫌な気持ちになんてならないよ」
「うそつき」


 緑谷くんは、ほんの少し口角をゆるめて苦笑した。それから眉尻を下げる。


「その、怒らないで聞いて欲ほしいんだけど……みょうじさんって、ひとりでいることが多いなって思っててね。なんでだろうって理由を探してたら、なんとなく、放っておけなくなったというか……」
「こんなに冷たく当たってるのに?」
「それにも理由があるんでしょ?」
「……」
「みょうじさんの考えてることは全然分からないけど、少なくとも僕を嫌ってるわけじゃないってことは分かるよ」


 照れくさそうに頬を掻く彼の眩しさが、私の視界を明滅させる。喉を通って胸の中、星屑みたいにチカチカ弾ける得体の知れない温もりに思わず揺れた涙腺は、奥歯を噛むことで留めた。