ひどく手触りのいい運命


 睨むような彼の瞳がわたしの姿を探すのは、もうなかば癖のようなものだった。きっと無意識。それだけ日頃、わたしのことを気にかけている。なんだかそれは、わたしが弱者である証みたいで情けない。でも嬉しい。彼はたぶん、ほんとうに弱い人には見向きもしない人だから。

 わたしは勝己にとって、他人とも親とも友達ともいえない少し特別な枠組みにいる。おそらくひとつ、わたしのためだけの特等席が彼の心の内にある。信頼するに値するとか、想いを寄せる価値があるとか、そういうもの。最初で最後の唯一無二。そうであって欲しいと思う。そうでなければ、おかしいと思う。
 だって瞳だけじゃない。口も耳も手も足も、勝己のすべてはいつもわたしを追っている。決してあからさまではない。わたしだけが気づけるくらいの自然さで、どこにいてもおんなじで、誰といても変わらない。

「ねえ、いつもありがとね」

 微笑みかけると、勝己は緩慢にこちらを向いて顔を顰めた。それから数秒置いたのち、訝しげな声色で、なに企んどんだ、と言った。やだなあ、わたしは軽く笑った。

「企んでなんかないよ。ただ、なんかこう、勝己のおかげだなって思ったの」
「はあ? なんもしてねえわ」
「そうだけど、そうじゃないの」
「……てめえはたまにわけわかんねえな」
「そうかな? でも、こういうわたしも好きでしょ?」
「うるせえ。調子乗んな」

 ハ、と片口をあげた勝己は、再びヒーロー雑誌へ視線を落とした。素直じゃないなあ。まあ、わたしは勝己のそういうところも好きだよ。

 彼が目にして触れて感じる世界の中にわたしがいる。それが当然で必要不可欠、いなくなったら探してしまう。そんな色鮮やかな優越に、今日もわたしは生かされている。明日も明後日もこの先ずっと、たとえ来世に命を賭ける日がこようとも、ずっとわたしを生かしていく。


title 失青