適温


 爆豪くんといられる朝は幸せだ。
 いつも気づけば反対側を向いてしまっているけれど、筋肉質な広い背中はきらいじゃない。わたしからくっつくことも、きらいじゃない。湯たんぽみたいな高体温が、じわじわ外から染みてくる。心地よくって二度寝しそう。一等席は隆起している肩甲骨の間だ。丁度顔がおさまるほどのくぼみ加減。手を回して足を乗せれば、ほら、安心。酸素と一緒に彼のにおいを吸い込んで、昼下がりに思いを馳せる。今日はどこに行こうかなあ。なにを食べて、どんな話をしようかなあ。

 空を漂う風船みたいにふわふわ思考を遊ばせながら、彼のお腹を擦り撫でる。弛緩している筋肉はふにふにしていて柔らかい。
 けれどくすぐったかったらしい。わたしの名前を呼んだ声は不機嫌だった。

「起きちゃった?」
「てめえのせいでな」
「でももう朝だよ」
「あ?」

 爆豪くんの腕が頭上へ伸ばされる。着地点には目覚まし時計。

「……まだ五時じゃねーか」

 低い声が息をつき、時刻を示す四角い箱が元の位置へと戻された。

「朝でしょ? 夜中じゃないし、明け方でもない」
「アホ。明け方っつーのは三時から六時のことだ」
「え? イメージと違う」
「てめえのイメージがどうだろうと気象庁じゃそう決まっとんだ」
「ふーん。博識自慢?」
「殺す」
「ふふ」

 相変わらず口がわるい。殺す気なんて全然ないからこわくない。爆豪くんは、こわくない。

「おらなまえ、もうひと眠りすんぞ」

 わたしの狭い首下へ、こっちを向いた彼の腕がすべり込む。抱き込まれるまま身を寄せて、ついでに背中に手を回す。

「何時まで?」
「俺が起きるまで」

 なんとも彼らしい答え方だと微笑む朝は、幸せだ。