これが呪いになればいい




悠仁が彼氏だったらなあ。言うと悠仁は苦笑しながら俯いた。俺になまえさんは勿体ないよ。俺なんかより、もっと良い人見つかるよ。

普段は明るい太陽みたいな男子高校生なのに、静かに地面を見つめる瞳は捨て犬みたい。どうやら楽観的に見える彼にもセンシティブな一面があるらしい。まだ高校生だもんなあ。素直に甘えられるほど子どもじゃない。そのくせ大人にだってなりきれない、不安定なお年頃。

わかるよ。私もそうだった。まだ呪術師だった頃、冷たくなってく仲間を前にただ泣くことしか出来なくて、何度も何度も無力な自分を罵った。何度も何度もおまえが死ねば良かったと、夢の中で自分を殺して嗚咽した。


「好きだよ。私、悠仁のこと」
「はは、ありがと。冗談でも嬉しい」
「悠仁」
「ん?」
「こっち向いて」
「……なに?」
「好き」
「……」


呪術師って、むずかしい。自分の命を懸けて他人を守るから。仲間の命を踏み台にして、憎い世界を救うから。自分がどれだけ取るに足らない存在か、目を背けることも出来ないくらいまざまざ突きつけられるから。だから私は逃げ出した。一級に推薦された時、不相応だと両手を挙げて、卒業と共に足を洗った。

私には誰もいなかった。私を肯定してくれて、愛してくれるような誰かがいなかった。ただ呪霊が祓えるだけの役立たず。そう貶しながら責め立てる、私自身しかいなかった。


「冗談にしていいよ。でも忘れないで」


俺なんか、と悠仁が下げた悠仁自身は、生涯私の好きな人。ひどい景色ばかりの檻で笑顔を忘れず頑張っている、強くて立派な男の子。勿体ないのは私じゃなくて、悠仁の方。私に悠仁は勿体ない。だから冗談にしていいよ。でも、忘れないで。


「どんな悠仁も好きだよ」


私の言葉が、あなたを守る呪いになってしまえばいい。




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