「……」
「……」
交わった視線をそのままに、変わらずじいっと見続ける。甚爾もそう。じいっと見つめ返してはどちらからともなく瞬いて、それからゆっくり手を伸ばす。昨日は私、今日は彼の方からだった。
「どうした」
目尻を撫でる指の背に、視界を細めて小さく擦り寄る。途端、いつも薄情な口元が緩んだ。笑い混じりの「なんだよ」が鼓膜を通り、優しい余韻を残していく。
甚爾が居る日は寂しくなくていい。たとえ本当でなくたって、望めば器用に愛してくれる。ぎゅっと程良く抱いてくれる。人肌が温かいことを教えてくれる。生きた鼓動を波打たせ、とても上手に甘やかしてくれる。独りで生きていけない私と衣食住が欲しい彼。言い得て妙な均衡は、だからこそ心地良く保っていられるのだろう。偽物でいい。薄っぺらくて浅いものでいい。だってもし本物だったら喧嘩したりすれ違ったり、相手に求めることが段々増えて将来に対する不安も募って、所詮他人は他人だと割り切ることさえ出来なくなってしまう。世の中、猫ちゃんくらいが丁度いい。ギブアンドテイクで成り立って、それ以外は目を瞑る。のめり込まない。依存しない。内面的パーソナルスペースに入らない。他人行儀で飄々とした暗黙の了解が、私にとっては甘やかな救いだった。
「あんま見るなよ」
「嫌だから?」
「穴あくから」
「じゃあ見つめとこ」
「なんでそうなんだ。普通逆だろ」
喉の奥での笑い声を彼の手自ら遮る。とんとん。枕元を叩いた手。こっちに来いって意味だろうか。上手く察せずはかりかねていると、とんとん。再度、まるで催促するように同じ所を叩いた無骨な手。
「ほらなまえ。俺見んならどこでも一緒だろ。ここ座れ」
言われるままに移動して、彼の枕元へ座り直す。満足気に瞳を細めて笑った甚爾はテレビへ向き直り、それから私の太腿へ頭を落ち着けた。ああ膝枕をねだっていたのか、ってはじめて気付いて、なんだか普通の恋人同士みたいな気恥ずかしさにちょっと笑った。
title まばたき
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