仕方がないので世間話をいくつか繕う。ただ間を繋ぐためだけの言葉には惰性が多分に生きていた。それでも時折頷きながら、にこにこ嬉しそうにしている彼女が「七海くんさあ”良い人”で終わるタイプでしょ」とグラスを傾ける。
「だめだよ。たまには自分を出さなきゃ」
「必要ありません。というより、そもそもこちら側に戻ってからは自由にしていますよ」
「うんうん、嘘がヘタなのは相変わらずだね。でもまあいいよ。それならそれで」
ビックスバイトをグラスへ移した唇が、ゆったりやんわり弧を描く。やけにスローモーションで伸びてきたのは、つるりと光る丸い爪。
「送り狼、期待してるね」
腕に触れた淡いベージュが、青いシャツにシワを作った。
title almaak
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