「ホタル、お前には事前に話しておくけど中忍試験どうしたい?」
「中忍試験?」

 波の国の任務を終えて早数日。
 カカシ先生に呼ばれて演習場にやって来たところ、冒頭の言葉を言われた。個別に呼ばれたためてっきり先日の退職騒動について改めてお叱りを受けるのかと思ったけど………。

 毎年この時期になると中忍昇格試験が開かれるのは知っていた。開催地は毎年変わるが、民間人の観戦も可である本戦(個人戦)には一度ゲンマさんに連れられて観に行ったことがある。

 私のようなやる気のない下っ端下忍には到底縁のない話だと思っていたものの、一体カカシ先生は私個人に何の用だろう。
 演習場に横たわる丸太に並んで腰をかけながら、おそるおそるカカシ先生の話を聞く。

「近々他里合同の中忍試験が行われるが、俺はお前ら第七班全員を推薦しといた」
「ぜ、全員?……………それは、部下の私が判断するものではないですが少し早くないでしょうか?」

 そんなカカシ先生の言葉に咄嗟に待ったをかける。

 ていうか、第七班のどこの何を見てそう判断したのか。中忍という役職は一小隊の隊長相応の力量レベルが求められるはず。
 もしかして今後の中忍試験に慣れさせるという目的込みで言っているのだろうか。

 私の怪訝そうな表情にカカシ先生がため息をついた。

「俺はお前達の成長を鑑みてこの結論に至ったよ。ホタルの言いたいことは分からなくもないが………というか、意外と顔に出やすいんだから気を付けなさい」
「す、すみません」
「それから話を戻すけど、ホタルはこの中忍試験どうしたい?」

 カカシ先生の真っ黒な片目が私を捉える。
 その瞬間、何とも言えない嫌な予感がした。この返答によっては今後の私の身の振り方が大きく変わるような気がしてならない。

「ええと、その前に何点か確認したいのですが………この中忍試験は個人受験でしょうか?それとも班ごとの受験になります?班ごとの受験でしたら、第七班はフォーマンセルなのでどのような処置がとられますか?」
「…………中忍試験は基本的にスリーマンセルの班で受ける。そのため公平を期して数余りの班には班員を一名、数の少ない班に組み込んで参加させるんだ」
「それは、数合わせで編成した班が不利になりますね」
「そうでもないよ。大体班員が足りないチームは中忍試験に合格した者が一抜けした班だからベテランも多い」

 その言葉に「なるほど」と納得した。
 となれば私達第七班が受験する場合、誰か一人は他の班に移動しなくてはならないのか。
 ちなみにフォーマンセルの班員一人が試験を辞退する場合はどうなるかと聞けば、スリーマンセル参加厳守という形を取っているためそれは不問とのことらしい。

「それからフォーマンセルで別班に移動する班員は協調性のある者が選ばれる」
「……………」
「な!ホタル」
「…………そうなんですかあ。えへへ!」

 にっこりと笑いながら何故か同意を求めてくるカカシ先生に私も引き攣りながら笑ってやり過ごそうとする。やめてくれ。そんな顔で私を見ないでくれ。
 そもそも私は一生下忍のままでいたいんだと思っていると、先生はにっこりと笑った。

「…………けど、ホタルは前に忍を辞めたいって言っていたよな?そう思うと今回の中忍試験はホタルにとってはどうなんだろうと思って」

 優しい………!しかし優しいけれど、そこはかとなく裏がありそうで怖いのも事実だった。こういう時に優しい人が一番やばいと自分の勘が叫ぶ。

 しかしカカシ先生にはこれまでの恩義もあった。
 波の国や退職騒動でのフォローをしてくれたカカシ先生の推薦を蹴ることは非常に申し訳ないが、中忍試験には絶対に何があっても受けたくないという気持ちもある。

「ホタル、正直に答えてくれ。中忍試験に受験したいか?」

 カカシ先生がまっすく言う。

 どうしよう。先生の恩義と自分の気持ちが天秤にかかりぐらぐらと揺れてしまう。

(辞退したいけど、カカシ先生の推薦を断るのは申し訳ないな。でも下忍のままのんびり任務をこなしたいし、そもそも中忍試験なんて受かるはずもないと思うし………)

 しかしそこでふと思う。
 まず、こんな気持ちで中忍試験に受けることこそ失礼ではないかと。

「ちなみに、私の不参加によってスリーマンセルが成立できない班とかあったりしますか?」
「それについてはこっちでどうとでもなるから、ホタルは気にしなくていいよ」
「…………分かりました。でしたら私、中忍試験受けません」

 そうきっぱりと言えば、まるで最初から分かっていたかのようにカカシ先生がからりと笑った。

「ま、そうだろうな!」
「申し訳ありません。せっかく推薦していただいたのに………」
「いや、気にするな」

 や、優しい!退職騒動で相談に乗ってくれた時も思ったのだが、最近カカシ先生が未だかつてないほど優しい気がする。
 しかしその直後、先生はがらりと雰囲気を変えて言い放った。

「───で、だ。ここからが本題だ」
「へ?」

 その言葉にぴたりと体が硬直する。

「ナルト達が中忍試験を受ける間、ホタルには任務を受けてもらう」

 ナルト君達が中忍試験を受けるのは決定事項なのかと思いながらも目を丸くする。

「任務とは?」
「潜入だ。詳細は俺の口から言えないが、近々火影様より召集されるだろう」
「……………分かりました」

 何だ。そっちが本命だったのか。そんなカカシ先生に対して思わず苦笑してしまう。
 きっとこの人は最初から私が中忍試験を受験しないと分かっていて潜入任務を用意していたのだろう。私も上司からの任務には応えなくてはならないし、流石に忍である以上逆らおうとも思わないため良いのだが………。

「……………」

 けれど、以前の退職相談のこともあってカカシ先生からあまり信頼されなくなってしまったなと気付いてしまった。
 考えすぎかもしれないが、中忍試験を受験しない私の罪悪感に託けて任務拒否をできないよう話を進めたのかもしれない。

「どうした?ホタル」
「いえ、何でもないですよ」

 少しだけ落ち込むもののこうなったのは自分が悪い。もし私がカカシ先生の立場だったら、一度退職しようとした部下に対し全面的に信じるのは難しいだろう。

「カカシ先生」
「ん?何だ?」
「…………その、私は一度退職しようとした忍ですが、任務を受けるからには精一杯やろうと思います。カカシ先生には色々と気を使わせてしまって申し訳ありません」

 何だか居た堪れなくなってそう言えば、カカシ先生は何故かしばらく考え込んだ後ぐしゃぐしゃと私の頭を撫でた。

「カ、カカシ先生?」

 驚いて目を白黒させているとカカシ先生が「うんうん」と頷いている。

「いやあ、感慨深くてな。ホタルも随分素直になったと思って」
「はあ」
「初対面の頃はめちゃくちゃ猫被っていただろう」
「見るからに怪しかったものでつい………」
「言うようになったな」

 くしゃくしゃになった髪を直しながら、くすりと笑ってしまった。すると先生が「まー、あれだ」とどこか参った様子で言う。

「ホタルが思ってるようなことは思ってないよ。お前のことだから必要以上に色々考えてるんだろうけど」

 そんなカカシ先生に何と返したら良いか分からず、とりあえず頷いた。何だか余計気を遣わせちゃったようで申し訳ない。

「今回の任務、ホタルならやれると思うが気を張ってやれよ」
「はい」

 どんな任務であるかはまだ分からないけれどやるしかない。おそらく中忍試験に受けるだろうナルト君達と別れる間、任務内容の他にどういった人達と組むのか気になった。






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