ユウさんとの修行が始まってしばらく。中忍試験まで後少しということから、第七班の任務以外全ての時間を特訓に費やすことになった。

 ユウさん曰く今以上のチャクラコントロールの向上とシンプルな体力作り、またアカデミーで習わない諸々の技術など目下必要とのことで、彼女がいない間も用意されたカリキュラムをこなすのに忙しい。
 差し迫った時間内で焦燥感に駆られるがこれをサボると死亡率が上がるため、死ぬ気でやらなければならなかった。

 演習場に流れている川の水面を冷や汗を流しながら駆け上がる。木登りの修行の延長線上であるため何とかコツを掴むことができたが、止まるとユウさんからのクナイが飛来するため気を緩めることができない。

 するとその時、足元の水面から水飛沫とともに手が伸びた。ユウさんだ。それを躱し印を結んだ瞬間、背後からクナイが飛んできた。

 変わり身の術で丸太に突き刺さったそれを通り抜け、ゴールに向けて川の上流へ目指す。

「まだちょっと甘いわねえ」

 しかし水面から現れたユウさんが猛スピードで背後から追いかけてくる。そして私の腕を掴んできたが、腕は蜃気楼のようにゆらりと歪んで宙に溶けた。

「幻術ね!」

 嬉しそうにするユウさんが怖い。
 あと少し。そしてあと少しでゴールだと思った矢先に、ユウさんが一瞬にして目の前に現れた。

 背後で幻術に引っかかったのは影分身か!

 そう思ったのも束の間、私はぺしんとおでこを叩かれそのままバランスを崩して川の水面に突っ伏した。



「───チャクラコントロールもまずまずだし、水面歩行しながら印を展開する余裕も出てきたわね」
「はい」
「ホタルからは何かある?」
「最後の影分身ですが、やっぱりチャクラ量が多くないと習得は難しいでしょうか?」
「影分身はチャクラを等分させて実体を作る術よ。たとえ今ホタルがそれを習得したとしても、それで戦うことは限りなく難しいわ。ま、あれば便利よね」

 川の水で濡れ鼠状態になりつつユウさんの講評を聞く。ナルト君や先程のユウさんの見て影分身があればできることは増えそうだと思ったが………。

「ユウさんは先天的にチャクラ量が多いんですね」
「ええ、まあね」
「…………お、覚えておいて損はないので、せめて印だけでも教えてほしかったり………」
「しょうがないわね。ホタルがものに出来るか分からないけど」

 下忍のままでいたいというのに、先の任務をこなすために強くなる。何か変な感じだなと思いながらも、生き残るためにはやらなければならなかった。




 ◇




 数日後、定食屋のカツ定食を頬張りながら、目の前にいる叔父のゲンマさんを見つめる。
 私の身体年齢がまだ未成年ということもあって、彼は月に一度食事がてら様子を見に来てくれるのだ。

 不知火家特有の焦げ茶色の髪くらいしか似ていない身内を前に、私は連日ユウさんによって行われる修行に疲れ切っていた。第七班の任務やこうした身内との用事以外の全ての時間を費やしているため、こうして体は休まっても精神的にへとへとである。

 そして今回、ゲンマさんを前に中忍試験の潜入任務について聞きたくて仕方がなかった。

(ゲンマさんも試験官の一人なんだよね。ユウさんが特別上忍とごく一部の上忍は知っているって言ってたけど、ゲンマさんもそれを把握しているのかな)

 しかし、定食屋は閑散としていて私達しかいないが、こんな場所ではあれこれ聞くのは流石に憚られた。

「さっきからどうしたんだよ」
「あ……ああ、ごめんね。ええと、私達ってあんまり似てないなあって」

 とりあえずふと思い付いたことを言えば、ゲンマさんが「そりゃそこまで似ないだろ」と返す。

「そもそも兄貴と俺が似ていないからな。それにホタルは母親のミツさん似だろ」

 確かに数年前に亡くなった今世の父と弟のゲンマさんは顔から性格まであまり似ていない。今世の父は柔和そうで愛嬌のある顔立ちをしていたが、ゲンマさんは目鼻立ちが整っている。生前の父が「ゲンマは良いなあ」と羨ましがっていたのを思い出した。
 そして私はというと今世の母(ゲンマさんの言う『ミツさん』)にそっくりであるため、彼の言葉に頷くしかない。

 するとゲンマさんはしばらく考え込んだ後、口を開く。

「ホタルは兄貴達のことをどこまで知っている?」

 いいや、全く。何も知らない。
 今世の両親は早く亡くなってしまったこともあるけれど、私に対して仕事内容を語る人ではなかったのだ。

 忍だからこそ幼いアカデミー生の我が子にぺらぺらと話すなんてあり得ないのだが……話したとしても「シカクの息子めちゃくちゃ賢いぞ……」だとか「みたらしさんはああ見えて面倒見が良いから困ったら頼りなさい」だとか世間話しか聞いたことがない。

 素直に首を横に振ればゲンマさんは「だよな」と言って呆れた目をする。

「あ、でも」

 けれど一度だけ父に頼まれて仕事について行ったことがあった。

 風の国と火の国の大名が砂の里で会合を開く際、その大名の子息達の世話係兼遊び相手として歳の近い忍の子供達がお呼ばれすることになったのだ。

 そして選ばれたのは私で。歳の近い下忍の子供も候補として挙がったが、父の娘である私が同行することに決まったらしい。

「───その時に父さんが大名に挟まれてたり、無茶振りされたり、忍の人達に指示を出してたりしていたから中間管理職みたいな感じかと思っていたんだけど………」
「間違ってはないな」

 大名の子達の遊び相手になる傍ら、せかせかと働いていた父を思い出す。そう言えば何故かゲンマさんは何とも言えない顔をした。

「まあ、あれだ。兄貴はよく他里との調整役をやっていてな。木の葉には対外的な政殿を引き受ける『外務班』ってのがあって、そこの室長でもあったんだ」
「………全然知らなかった」
「そうは見えなかったからな」

 今世の父は、転生して変に大人びた私に対して気味悪がることなく育ててくれた非常に出来た人物だ。しかし何というか、少しばかり抜けたところがあって、よく母から甲斐甲斐しく面倒をみてもらっていたのを覚えている。
 そんな人が察するに重要なポジションに就いていたとは想像ができなかった。

「それに、兄貴はホタルが下忍になるまで話すつもりはないと言っていた」

 けれど、そうなる前に亡くなってしまった。
 雲隠れの忍の襲撃に遭ったことは知っていたが、もしかするとそんな父の背景もあって狙われたのだろうか。

「───話は変わるが、今回の任務はそういったことも含まれてお前が選出されたんだ」

 ゲンマさんの言葉にはっとする。
 詳細は語られていないものの、今回私が受け持つ中忍試験の潜入について言っているのが分かった。

 それと同時にたったそんなことで、とも思ってしまう。
 私が下忍であり元々受験する気がなかった身だからこそであるが、『血筋』に対してそこまで期待する里に気味の悪さも感じた。

(本当に私の住んでた場所と感覚が違うんだよね………。元の世界でも世襲とかはあったけど、何か違うような)

 波の国でカカシ先生と話した時に同じようなことを感じたのを思い出す。

「…………すごく買い被り過ぎだと思うけど、引き受けたからには一生懸命やるつもりだよ」
「無理はするなよ」
「うん、ありがとう」

 今回の任務は暗部とともにこなすけれど、命の危険がある。ナルト君達が参加する中忍試験も、内容を聞く限り生死に関わる試験が用意されている。

 とても優しい人達だけれど、ふと忍としての厳しさが垣間見えてしまいここが異世界であることを実感する。
 けれどそれも、少しずつ慣れてきてしまった。




 ◇




(あ、雨隠れの忍だ)

 ゲンマさんと別れ、帰路につく。
 その道中にすれ違う他里の額当てをした忍達に、あとほんの数日で中忍試験が始まるのを嫌でも実感した。

 カカシ先生はナルト君達に受験させようとしているけど、どうなんだろう。ユウさんから試験内容を聞いたのだが、第二次試験には『死の森』のサバイバルが待っている。
 ナルト君やサクラちゃん、サスケ君が命懸けで成長する代わりに酷い目に遭うのかもしれない。

 ───他里の忍達の陰謀や、火影様が言う木の葉の里に潜むスパイによって。

「……………」

 まだそうとは決まったわけではないけれど、ひしひしと嫌な予感を感じる。おまけにユウさんからサイ君には気を付けろと忠告された。

 何だろう。色んな思惑があり過ぎる。

 一先ず気持ちを切り替えて、中忍試験の潜入に向けて準備をするしかない。参加下忍や試験官達の情報の把握、それだけでなく死の森へ入るのだから相応の用意も必要だろう。

 するとその時、ふと大きな瓢箪を背負った赤髪の少年とすれ違った。ちらりと一瞬見えた額当てで彼が砂隠れの忍だと分かる。

 目の周りがクマでおおわれた不健康そうな子に心配するものの、そのどこかで見覚えのある顔に不思議に思った。








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