無慈悲な通信音の聞こえる聴覚機関から指先を離し、もう何回目になるかわからない溜息を吐き出す。
そんな私の様子を見て、偶然近くを通りかかったプロールが、どうかしたのかと首を傾げる。
「いや、昨日からなまえに電話が繋がらなくて」
そう言うと、プロールは顎に手を当てて深刻そうに頷いた。
「それは心配である。安否確認に行った方がいいのでは?」
「ああ、いや、おそらくそういうんじゃないんだ。それとは別で……、心当たりがある」
「心当たり?」
「ああ……、」
私はプロールに昨日のことを語り始めた。
私がなまえに好意を抱いていて、その想いを伝えるにはどうしたらいいのかとバンブルビーに聞いたこと。
そしたら、「やっぱ指輪じゃないかなあ! なまえと目線が合うように膝をついてさ、指輪を差し出して”結婚してください”って言うんだ。……え、指輪ってなにかって? んー、なんていうのかなあ、ナットを細く綺麗にしたみたいな感じなんだけど……。ほんと言うと僕、ナットでもいいんじゃないかなって思うんだ。大事なのは気持ちだよ!」と言われたこと。
そしてその通りに、できるだけ綺麗なナットを選んでなまえの前に膝をつき、ナットを差し出しながら「結婚してください」と言ったこと。
その言葉を聞いた途端、瞬く間に彼女の顔が真っ赤になったこと。
それから視線を泳がせ、口を開いたり閉じたりして、結局なにも言わずに私の前から逃げるように走り去ってしまったこと……。
そこまで話すと、プロールは”もうわかった”というように片手を上げた。
「それは聞く相手を間違ったである」
「やはり、そうか……。バンブルビーはあの少女と仲が良いから、的確なアドバイスがもらえるかと思ったんだが……」
「次からはサリに直接聞いた方がいいである。バンブルビーを経由せずに」
「ああ、そうするよ」
私は苦笑しながら頷いて、もう一度なまえに電話をかける。
5度目のコールが鳴って、”また駄目か”と通信を切ろうとした瞬間、「はい」と少し硬い彼女の声が聞こえた。通話に出てくれたうれしさと、彼女の声の硬さに対する緊張がない混ぜになって、うわずってしまった声を咳払いで誤魔化し、もう一度初めから言葉を紡いでいく。
「ジャズだが、昨日のことはすまなかった。友人からアドバイスをもらったんだが、どうやら間違っていたみたいだ。不快な思いをさせてしまったのなら許してほしい。本当に申し訳なかった」
私がそう言うと、彼女は慌てたように「いいえ、とんでもない!」と口にした。
「私の方こそ、何も言わずに逃げ出してしまってごめんなさい。突然だったから、もうどうしていいかわからなくて……。あ、それで、そのことなんですけど、」
彼女は言葉を切った。沈黙が流れる。不思議と、どこかあたたかい沈黙だった。
数秒が経過する。電話の向こうで、少しばかり笑みを含んだ彼女の声が、「友達からでよければ」と、私に福音を告げた。