ばかな生き物だけどさ

不意に、隣から盛大なくしゃみが聞こえた。そちらを見るとなまえが、寒い。と言いながら赤くなった鼻をすすっている。少し強い北風が、頭上の梢と一緒になまえの髪を揺らして通り過ぎた。彼女はまた、寒い。と、まるで呪詛のように呟く。寒いはずだ。呆れて溜息が出る。この寒いのに、なにひとつ防寒具をつけないで外に出ているのだから。

「ほんと失敗したな。コート着てマフラーしてくるんだった」

そう言いながら、なまえはけらけらと笑った。寒さで気が狂ったんじゃないかと、一瞬心配になる。

「でもさ、今日はあったかいって言ってたじゃない? それ信じたのにさ。裏切られたね」
「天気予報士に?」

俺がそう言うと、彼女は、まさか。と笑いながら首を振った。

「違うってば。そうだな、ええと……、神様?」
「だったら、お前の日頃の行いが悪い所為だな。この寒さは」
「ちょっと、なんでそうなるの? 寒いのを私の所為にしないでよ」

言い終わった途端、なまえはまたくしゃみをした。これは本格的に風邪の引き始めかもしれない。彼女は、なにか正当な理由がないと他人から絶対にものを借りようとしない。つくづく面倒だと思うのだが、かく言う自分も他人のことを言えない。面倒なところばかり似ているんだな。そう思いながら、なまえに気付かれないようにマフラーを外す。
なまえは相変わらず、赤くなった鼻をすすりながら、今日履いた靴下に穴が開いていたとか、数学の宿題が空欄だらけだとか、そんな他愛もないことを、前を見つめながら並べ立てている。そんな彼女の首に、さっき外したマフラーをかけてやった。立ち止まった彼女は、びっくりしたような顔で俺の方を振り向く。マフラーに視線を落としたあと、微かに赤みを帯びた顔をあげる。

「カズヤ、いま首絞めようとしたでしょ」

こちらを睨みつけながら言った、その言葉が照れ隠しだということを、俺はちゃんと知っている。



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