少女だったあなたへ

※大人設定


精市は後ろ手に隠していた花束を、輝くような笑顔と一緒に私に向かって差し出した。
あまりにも突然のことにびっくりして、私の視線は彼の笑顔と花束の間を彷徨ってしまう。花束を受け取ろうとしない私に、精市は左手をとって花束まで導いてくれた。大人しく受け取ると、セロファンがかさりと音を立てる。精市が静かに手を離したのに気づかなくて、私は慌てて落としそうになった花束を抱え込んだ。「ごめん!」と焦ったように謝る彼に、大丈夫だと笑顔を向ける。腕の中の花束は、青くて透き通った匂いがした。

「どうしたの? 急に花束なんて」

花束をもらうようなイベントが思いつかなくて、私は首を傾げる。そしたら、精市はちょっと寂しそうな顔で笑った。

「やっぱり、憶えてないよね」

精市のその言葉と寂しそうな笑顔に、私は必死になって記憶を辿った。でも、どうしても何も思い出せなくて、申し訳なさそうな顔をして謝ることしかできない。

「ごめんなさい」

私の謝罪に、精市はやさしい笑顔でゆっくりと首を振った。

「いや、いいんだ。もう随分と前のことだから。本当になるかどうかも、わからなかったし」
「……本当になるかどうか?」

その言葉の指す意味がよくわからなくて首を傾げると、精市は微笑みながら頷いた。

「そう。だって、なまえが俺と付き合ってくれて、それが続くとは限らないだろ?」
「……うん」

精市が一体なにを言おうとしているのか、まだよく理解できないまま頷くと、彼はポケットから小さな箱のようなものを取り出した。
その瞬間、堰を切ったように遠い日の記憶が蘇る。そう、そうだった。私たちがまだ子どもだった頃、精市は「なまえに”結婚してください”って言うときは花束をあげるからね」と、確かに、確かに笑ってそう言ってくれたのだ。
私の目にその日が映るのを見たのか、精市はなにもかも理解したように微笑んで、私の前に片膝をついた。そして、小さな箱の蓋を開けて、私に向かってそれを差し出してくれる。

「なまえ、俺と結婚してください」

私を見上げて微笑む精市を見つめていたら、色々な感情が込み上げてきて、私は堪えきれずに泣き出してしまう。
花束に顔を埋めながら、何度も、何度も頷くと、精市は花束を抱える私の左手をとって、その薬指にそっと指輪を嵌めてくれた。花束から顔をあげると、私の手をとったまま、幸せそうに、愛おしそうに微笑む精市が立っている。
あまりの幸福にまた花束に顔を埋めると、精市のやさしい腕が、私をそっと抱きしめてくれた。



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