陶器の割れる音がした。
銀色に鈍く光る鋏の手入れをしていた私は、音に驚いて顔をあげる。手にしている鋏の持ち主が、ぎょっとした顔で戸口に突っ立っていた。その足元には、元は湯飲みだったと思われる陶器の欠片が散らばっている。中身は入っていなかったみたいで、床は乾いていた。
「OVER、どうしたの、そんな顔で」
普段そんな顔をしないから、それがおかしくて、私は少し笑っていたと思う。彼は怒ったような顔になって、大股で陶器の欠片をまたぐと、あぐらをかいている私に視線を合わせるように膝を折る。指、と彼は言った。
言われるまま、私は自分の両手を見つめた。左の人差し指から血が出ている。さっき自分でつくった傷だった。切れ味をみる為に自分の身体で試すことは、私にとってそう珍しいことじゃない。
彼の怒ったような顔の原因がこの傷だと気付いて、私は少しだけうれしくなった。
「平気。なめといたら治る」
そう笑って、人差し指を口に含もうとしたら、左の手首を掴まれた。手首を掴んだOVERの手は、骨ばっていて大きく、想像していたよりも冷たくはなかった。掴まれた理由がわからずに、首をかしげる。
OVERは眉間にしわを寄せて私の顔をじっと睨んだあと、諦めたように目を伏せて長い息を吐く。
「馬鹿か手前は」
OVERはそう言いながら、私の前に腰を下ろした。私の手首を掴んだまま。白銀の髪がさらりと揺れる。
私の手を自分の顔の前まで持ち上げると、その指先をそっと口に含んだ。舌で傷口をなぞられると小さく鋭い痛みが走った。思わず顔をしかめる。彼は私の指を口から離した。傷口から出た血が滲む。
「深く切りすぎだ」
「うん。少し加減を間違えた」
「今度、試し切りするなら俺に言え」
「でも仕事の一部だし」
「それでもだ馬鹿」
絆創膏ぐらい誰かしら持ってんだろ、OVERはそう言って立ち上がると、部屋を出ようと歩き出す。その背中に声をかけた。彼は怪訝そうな顔で振り返る。
「ありがとう」
私が頷くと、一瞬だけ呆気にとられたような顔をしてから、口を斜めにして鼻で笑う。代金まけろよ、と背中を向けた彼は、長い銀髪をなびかせて部屋を出て行った。