目の前に立ちはだかる人物を見るなり、私の右脚はズズズと一歩後ろに退がった。賢明な判断だと思う。それに伴って、私の左脚もめいっぱい地面を蹴れるように体勢を整えた。
そんな私を見て、目の前の彼、白狂様は不穏に首を傾げる。あまりに不穏すぎて、ゴキ、という鈍い音が聞こえるんじゃないかと思ったくらいだ。
医者、という肩書きは本当に肩書きだけで、ほぼ全員が、あいつはただの殺戮者だ。と口を揃えて言うレベルの人物だ。そんなの、どう考えたって逃げた方が良いに決まってる。
「失礼します!!」
言うが早いか、私は踵を返して全速力で駆け出した。そしてもちろん、私の耳には後ろから追いかけてくる白狂様の足音が、地獄から響いてくるかのように聞こえている。
とにかく逃げなくては、と必死に走っていたら、途中ですれ違ったベーベベさんの、今日も絶好調だな。と笑う声も一緒になって追いかけてきた。