いつからか、隣を歩く”立花くん”は”京くん”になった。それがいつのことだったかは、ちょっと思い出せないのだけれど。
知らず知らずのうちに、よく話すようになって、一緒に帰るようになった。どっちからも、帰ろう。なんて誘った憶えはないと思う。気が付いたら、それが当たり前になっていた。
「ねえ、京くん」
名前を呼んだら、京くんはちゃんと私の目を見て、それから首を傾げる。
「なに?」
京くんの返事は、必ずひと呼吸おいてから返ってくる。私はそれが好きで、真似しようと思ったことが何度かあるのだけれど、いずれも上手くいかなかった。たぶん、システムからして違うんだと思う。
あの余韻みたいな感じ、好きなんだけどなあ。
「なにか食べたい」
「つくってあげようか?」
「うーんと……、そういうんじゃなくて。ほら、アイスクリームとか、ケーキとか。どこかでさ」
「食べたいの?」
私は大きく頷いた。
「アイスがいいかなあ……。京くんは?」
「俺は別に、なんでも。なまえの好きなのでいい」
なにがいいかと訊くと、京くんは大体、なんでも。とか、決めて良いよ。と答える。私は優柔不断なほうだと自負しているので、そういう答えは正直困る。でも、京くんのなんでも。は、やさしいから嫌いじゃない。なんでも好きなのを選んで良いよ。って、そういう雰囲気が伝わる。だから私は気兼ねなく、自分の好きなことを言えるのだ。
「じゃあ、アイスクリームに決定」
私がぱんと手を叩くと、京くんは隣でふっと目を細めた。それから、不意に手を伸ばして私の髪をくしゃくしゃになでる。
そんな京くんの手のひらはいつだってやさしくて、私はもうそれだけで泣き出しそうになるんだ。