きみの心臓につなぐりぼん

私の目の前で、にこにこと笑いながら守屋くんのことを話すサガネちゃん。
そんなサガネちゃんが髪を束ねているりぼん、すごくかわいいと思う。いいなあ、と。でも、りぼんをつけられるのはかわいい女の子の特権だと私は思う。かわいいと言っても、顔とかじゃなくて、雰囲気。こうやって、好きなひとのことを話してにこにこしている子になら、ぴったり似合う。

「それでね、さっきゅんが……、なまえ?」

話聞いてる? と、私の前で首を傾げるサガネちゃん。

「あ、ごめん。ちゃんと聞いてるよ。守屋くんが、なに?」

続きを促したのに、サガネちゃんは意味ありげな笑顔で私を見つめたまま。どうしたんだろう、私の後ろに守屋くんでもいるんだろうか。振り返ろうと思ったのだけど、もし目が合ったりしたら気まずいからやめておいた。

「そっかあ、ついになまえもあれね。青い春がきたのね」
「あおいはる?」
「正直に言いなさいよ。好きなひとできたくせにー」
「え?」

一体、なにを言い出すんだ。私はただ、にこにこ話すサガネちゃんはりぼんが似合うな。と思ってじっと見ていただけなのに。

「恋煩いってやつでしょ。ぼーっとしちゃって」
「まさか。違うよ、私はただ、」
「いいのいいの。誰にも言わないから、ね。誰なの?」

そう言って、顔を輝かせながら次々とクラスの男子の名前を挙げていくサガネちゃん。あんまり私が首を横に振るからか、まさか、さっきゅん? とものすごい剣幕で訊かれて、私は千切れるくらいに首を振って否定した。誰もサガネちゃんと張り合おうなんて思わないから。

「あと残ったのは、森崎と立花だけど……あ、あとゴミ袋みたいなやつ。ここまできたらもういい加減白状しなさい!」
「だから、違うんだって。サガネちゃんりぼん似合うなあ、と思ってぼーっとしてただけなの!」
「……りぼん?」

なにそれ。と、サガネちゃんは眉をひそめた。

「似合うもなにもないでしょ? なまえだって付けたら良いじゃない」
「だめ。私には雰囲気がない」
「リボン付けて良い雰囲気?」
「そう。だからだめ」

私が頷いたら、サガネちゃんは呆れたような溜息を吐く。

「もう、なまえったらばかね。良いじゃない、雰囲気なんて。かわいいもの付けられるのは女の子の特権でしょ」

サガネちゃんは言いながら、髪を束ねていたりぼんを解いた。そしてそれを私の左手の小指に結ぶ。もちろん、りぼん結びで。
私が戸惑っていると、サガネちゃんはふっと笑って、それあげる。と言った。

「私は同じの、もう1本持ってるから」
「え、いいの?」

サガネちゃんはこくりと頷く。

「雰囲気なんて、あとからついてくるものよ」

そう言って私にウインクを投げると、サガネちゃんはにこにこしながら守屋くんの名前を呼んで席を離れてしまった。
サガネちゃんが結んでくれたりぼんをじっと見つめる。そしたら、不意に視界が暗くなった。顔をあげると、立花くんがいつもの無表情で立っていた。私の左手を見て、小さく首を傾げながらぽつりと呟く。

「なにしてるの」

どう答えようか悩んだ。サガネちゃんが結んでくれた。と言うのは、事実だけれど質問に対する答えにはなっていない。いい返事が思い浮かばなかった私は、逆になにをしているように見えるか訊いてみた。

「なんだと思う?」
「恋愛成就のお呪い、とか?」

ちょっと考えたあとで、立花くんはそう言った。立花くんって、意外とメルヘンチックだ。

「あ、それすてき。じゃあそういうことで」

あっさりとそれを認めた私は、左手を目線の高さまで持ち上げる。サガネちゃんからもらったりぼんが揺れた。
立花くんは、椅子を引いて腰掛けると机に腕を乗せて頬杖をついた。

「叶いそう?」
「うーん、どうかなあ……。なにしろ前例も信憑性もないもので」

そう言ってひらひらと左手を振ったら、小指のりぼんが解けてしまった。

「あ、解けちゃった……」

いつか解けるとは思っていたけれど、こんなにすぐとは。せっかくサガネちゃんが結んでくれたのに。

「それ、貸して」
「あ、うん。どうぞ」

立花くんは、机の上に流れていた私の髪を一房だけ、器用に三つ編みにしてりぼんで結んでくれた。

「それ、お呪い継続中だから。叶うといいね」

そう言って、立花くんは席を立った。
立花くんが触れた髪が、ほんのすこしだけ暖かいような気がした。



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