料理の腕が飛び抜けていいとか、他の女の子と比べて美人だとか、そんな特典を、私にはひとつも、神様はつけてくれなかった。
でも、それだからこそ、理解できないことがひとつある。
「きょう、ニューカマー発見しました!」
私の、ほんとうに目の前で、半井くんは顔を輝かせている。理解できないことと言うのは、他でもない彼のことで。興味のないことには一切興味を示さない彼だけれど、どうしてか、私には一生懸命話しかけてきてくれる。色々と突拍子もない守屋くんに興味を示したのは理解できるけれど、なんの取り柄もない私に興味を示すのは理解できない。
「あ、そうなの? それは良かったね」
今日だってほら、一生懸命に、なんだかよくわからない話をしてくるんだ。それが大抵、猫に関する話なんだとは、最近になってわかったのだけど。
「なまえさんも行きます!」
きらきらした顔でそう言うと、半井くんは私の手を握って走り出した。まだ授業あるんだけどな……。教室を出て、廊下で榊先生とすれ違う。そしてすぐに後ろから怒鳴り声が聞こえてきた。また補講決定かな。そんなことを思いながら、半井くんに手を引かれて走る。今日は、いつも両手にしているはずのミトンをしていなかった。そんな彼の手のひらは想像していたよりも小さくはない。そして、それが少しだけ意外だった。
「半井くん、また補講だね」
「補講、たのしいです」
「そう? 楽しいんだ?」
「なまえさんといっしょだからです!」
半井くんに、なあに、それ。と返そうとしたときだった。ふと、春の匂いをした風が吹いてきて、私はぴたりと立ち止まる。私の少し前で半井くんも立ち止まって、こちらを振り向く。
「どうしたんですか?」
「あ、ううん。いま、春の匂いがしたなあ。と思って」
急に止まってごめんね。と謝ると、半井くんはにっこりと笑って、また私の手を引いて走りだした。前を向いたままで、きみのそういうところが好きです。と言いながら。