「あ、ねえ。京くんの髪と一緒だよ」
そう言ってなまえは薄いピンクのリボンを俺の目の前にちらつかせた。うざったそうにその手を視界から退けたら、なまえは、せっかく教えてあげたのに。とでも言いたそうな顔で睨んできた。
「俺の髪、そんな寝ぼけたような色してないし」
顔の横の髪を摘んで視界に持ってくる。ほら、全然違うじゃん。って視線を送ってやれば、なまえは、そうかなあ。と首を傾げた。こんなんだと思うんだけどなあ。と。
「大体、リボンがほしいって言ったの君でしょ。俺の髪色と同じとか、どーでもいい」
「ああ、うん。京くんの髪には同色系より、茶色とかのほうが似合いそうだね」
「言葉理解できてる?」
なまえと会話が噛み合ないのはしょっちゅうだけど。ほんとに宇宙人なんじゃないかって疑ったことが何回か……。
「あ、ほら、あの茶色とかね!」
「ひとの話を聞けよ」
無意識に手が出た。うん、不可抗力。
「いだ! ちょっと、いま本気で頭叩いたでしょ」
「なまえがちゃんと話聞かないから」
「あ、え、ごめん。だって京くんが買い物ついてきてくれるなんてレアでしょ? うれしくって」
そう言って子供みたいに屈託なく笑うなまえ。なにそれ、その顔って無意識?
「どうしようかなあ、どっちか迷うなあ……」
さっきのピンク色のリボンを右手に、俺に似合いそうだとか言ってた茶色のリボンを左手に、それぞれ持ったなまえは真剣に悩んでいて。両方買えばいいじゃん。とは言えない雰囲気だった。
「あー、ピンクもいいけど、茶色も捨てがたいんだよね……」
当の本人にそんなつもりは更々ないんだろうけど、これ、誰か片方買ってくれないかなー。って言ってるように聞こえるんだけど……。ていうか、そうにしか聞こえないんだけど。
「……どっちか買ってあげる」
なまえの自問自答にいい加減耐え切れなくなったから、そう申し出てやった。
「え? あ、いや、別に両方買わなくてもいいんだけど……。ごめん、うるさかった?」
「めちゃくちゃ」
「ご、ごめんなさい……」
「ほら、そっちのピンクの貸して。買ってあげるから」
「あ、ほんとにいいの? いやあ悪いね、ありがと!」
そう言ってなまえはなんの躊躇いもなくピンクのリボンを俺の手に押し付けてきた。あれはやっぱり、片方買って。ってことだったんだろ……。ほんとちゃっかりしてる。レジで会計を済ませて外で待っていると、ほんの数分後になまえも出てきた。ものすごいニコニコしながら。なにがそんなにうれしいんだか……。
俺の前まで歩いてきたなまえに、さっき買ったリボンを差し出す。なまえはやっぱりニコニコしながらお礼を言った。
「ありがとう! あーよかった。これで野良猫とか言われないで済むよ」
「は?」
「あ、このリボンね、うちの猫の首にしてあげようと思って。首輪つけてないせいで野良猫と間違われるんだよねー」
「…………あ、そ」
なまえの髪のほうがピンクは映えるよ。とか言って渡さなくてほんとよかった。