厳重そうなケースの中で鈍い光を放つ銃に目を止めると、私の斜め後ろを着いてきていたスィンドルが待ってましたとばかりに説明を始めた。せっかく説明をしてくれているのだから、そちらを向くのが礼儀だろうと思って彼の方を振り返る。
私には聞いても全く理解の及ばない内容だったけれど、ときどき頷いて相槌を打っておいた。それに気を良くしたのか、スィンドルは更に別の銃を指差して説明を始める。それから少しして一通りの説明を終えたスィンドルは、両の掌を合わせて首を傾げた。
「いかがなさいます? 私個人の感覚では、最初のものが扱い易いとは思いますが」
「そう……。なら、そっちを貰おうかな」
「さすがなまえさん、お目が高いですねぇ!」
そう言うが早いか、スィンドルはまるで手品のように一瞬でケースの中から目当ての銃を取り出す。驚いて何も言えない私に向かって悪戯っぽくウィンクを投げると、種明かしはしませんよ、と付け加えた彼はカウンターの裏に回った。それに倣って私も大人しく正面に回る。
「お支払いは如何なさいます?」
「これで足りると良いんだけど」
カウンターに置かれた銃の横に、戦利品の武器の入った袋を置く。スィンドルはほんの一瞬だけ横目でそれを確認すると、無論です、と言って大きく頷いた。
「しかし、これでは銃の割りに合いませんねぇ」
「別に構わない。嫌でも腐るほど手に入るし」
そう言って自嘲すると、スィンドルの視線が先日の戦闘で負傷したときの、左腕の粗末なリペア跡に注がれているのに気付いた。
ちょっと油断しただけ、そう言って腕を持ち上げてみせると、彼はまだ傷跡を見つめたまま、少し遅れて口を開いた。
「……逃げたい、とお思いになったことは?」
予想していたものとは随分と違う言葉が口にされたので、私の思考は一瞬止まってしまう。その言葉の意図を計り知れないまま、ゆっくりと首を振る。
「いや、一度も」
逃げたい。そんな感情が存在することすら忘れていた。殺すか殺されるか、私たちにあるのはそのどちらかだけだ。今までも、これからも。
「”こっち”はみんなそうだと思うけど」
思わず自嘲してしまう。殺すか殺されるかの二択しかないなんて、頭で物事を考えられない下等生物みたいじゃないか。でも、それを嘆いたことは一度もない。嘆こうとすら思ったことがない。……ほら、やっぱり。
私が嘲笑うのを見たスィンドルは、その綺麗な紫の目を細めて薄く笑った。
「私、あなたのこと気に入ってるんですよねぇ。……なので、気が変わったならいつでも」
そう言って彼が私の前に滑らせた銃の上には、数字の刻印された薄い金属のカードが乗せられていた。
少しの間それを眺めた後、私は視線を上げて微笑んだ。
「覚えておく。ありがとう」
でも、この薄い金属の存在を思い出す日はきっと来ないだろう。
殺すか殺されるか、そのどちらかだけだ。
これからも、ずっと。