彼女の素足は、とても無垢な色をしていた。私が遠い昔に失くしてしまった、無邪気だとか、純粋だとか、そんなものを、まだ失ってはいないように思う。
「裸足で、痛くはないの?」
私は、数メートル先で鍛錬に励むモルジアナに訊いた。ちょうど彼女の立っているあたりで、私はいつだったか、足がもつれて転んでしまったことがある。その容赦のない冷たさと固さは、もう二度と味わいたくないと思うような痛みだった。
「痛いと思うときもありますけど、」
このままでいいんです、彼女はそう言って、ほんとうにおだやかな顔で笑う。でも、硝子の欠片だとか、鋭く尖った小石の角だとか、そんなものたちが、そこかしこに転がっているかもしれないわけでしょう。喉元まで競り上がってきた言葉は、モルジアナのおだやかな顔に気圧されて、私はまたそれを飲み込む羽目になる。
「心配してくださって、ありがとうございます」
どこか遠くで、誰かが彼女の名前を呼ぶ声がする。モルジアナは微笑んで、私に礼儀正しく一礼すると、無垢な裸足で軽々と走り去って行った。そんな彼女を見送ったあとで、私は自分の足下を見つめる。無機質で無慈悲で冷酷な大理石。私は盛大に溜息を吐いた。煩わしそうな顔をしてくれたら良いのに。あんなにやさしい顔で拒まれるから。あのおだやかな顔に、私はいつもなにも言えなくなる。