施設の闇い片隅にうずくまって、死を迎えるだけだったこの身体に、存在理由と居場所をくれたのは、他の誰でもない紅覇様だった。
魔導の修練の際にこの身は変じ、私の片目は腐り蕩けてしまった。今はただ、真っ黒な眼窩が口を開けているばかり。正面の鏡に映る、私の、醜い。醜い。なんておぞましい姿だ。
「どーしたの、そんなこわい顔して」
椅子に座る私の後ろに立ちながら、紅覇様は右の眼窩に包帯を当てがう。自分でやるから結構ですと、何回断っても無駄で、僕がやりたいんだからいいでしょ、と微笑まれると、どうしても強く言えない。
紅覇様の手は、きれいで器用だった。私と違う。叩き落とされることを覚悟の上で伸ばしたこの手を、あの手は、なんの躊躇いもなく掴んでくれた。
「醜いな、と、思いまして」
自嘲の意味を込めて微笑んだら、紅覇様は子供のように頬を膨らませる。
「もー、またそんなこと言って……、お前はきれいだよ?」
「そう言ってくださるのは、紅覇様だけです」
「他の奴らは解ってないだけだよ。そこらへんの女より、なまえのほうがよっぽどきれいだってこと」
包帯を巻き終えた彼は、私のすぐ横に顔を並べて、きれいに笑ってみせた。やさしいひと、こんな私に自ら包帯を巻き、笑いかけ、ちゃんとした生き物として扱ってくれる。こんな私を、疎うことなく傍に置いてくれる。
「勿体ないお言葉、ありがたく賜ります」
死ぬだけだったこの身体を、今日まで生かしてくれた。
この身はきっと、彼の為に死のうと思う。