うらうらら

彼女が煙草を吸い始めたのはいつからだったろう。
それはあまりに遠すぎてもう思い出せないのだけれど、とにかく、私の隣に座る彼女は煙草を吸っている。いつも隣にいる所為か、その匂いにも、もう慣れてしまった。そもそも始めから、嫌な匂いだとは思っていない。
彼女が煙を吐き出す。それから、少しだけ時間を沈黙で消費したあと、私は口を開いた。

「煙草、もうやめたらいいのに」

口から出た言葉が、遅れて自分の耳に届く。口にする前に頭を巡った言葉が、もう一度、頭のなかをまわる。
もうやめたらいいのに。また口から出そうになって、危ういところでそれを呑み込む。カナちゃんは黙って私を見ていた。私も黙って、彼女の細い指に挟まる煙草を見ていた。もうだいぶ短い。先端の赤い火がきれいだった。

「それ、何回目?」
「数えてないけど、たぶん30回は軽く越えてる」
「だろうな、そのくらいは言われてる」

そう言ってから、彼女はまた煙草を口にした。手を動かした拍子に灰が地面に落ちる。1回だけ息を吸って煙を吐き出すと、彼女は短くなった煙草の火を足で踏み消した。近くには、5分前の吸い殻が転がっている。

「だって、もう大人ぶる必要ないじゃない」
「さあ、どーだか」

カナちゃんはそう言って笑った。
私が彼女と同じ理由で、煙草を吸う。と言ったとき、お前は吸うなよ。と返して笑ったときと同じ。

「やさしいよね」
「誰が?」
「カナちゃん」
「冗談なら、もっと笑えること言いな」
「冗談じゃないってば」

どんなに私がせがんでも、煙草を一口ですら吸わせてくれなかった。そう言えば、煙草を吸っているとき、カナちゃんはいつも風下にいたような気がする。一体、これのどこがやさしくないと言うんだ。

「ねえ、カナちゃん」
「ん?」
「私より先に死んだら許さないから」

箱から煙草を取り出そうとしていた彼女は、びっくりしたような顔で私を見る。それから目を細めてふっと笑うと、煙草を取り出さないまま、箱をポケットにしまう。そろそろ禁煙かもな、と呟きながら。



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