あ。と思って、咄嗟に手にしていた書類を顔の前に構える。その一瞬あとに、嫌な音が聞こえた。右の手に、生暖かい血が飛ぶ。そろり、と書類を視界から退けると、さっきまで話をしていた男性が床に倒れている。こんな風景を見るのは、今回で何度目だろう。死体から顔をあげると、不機嫌そうな顔をして立っているトミー様が見えた。左手を腰に当てて、右手は真っ赤になって躰の横にぶら下がる。一定の間隔で、その血が床に染みをつくった。
「仕事の話ですよ。トミー様」
今はもう息をしていない死体を見つめながら、私はそう言った。この書類どうしよう。これで何回目だ。って、また料理長に怒られるかもしれない。それもみんなトミー様の所為だ。と、若干の怨みを込めた眼差しで彼に視線を移す。
「ボクが知るかよ。雑用なんか他のヤツに任せろって言ってんじゃん」
「他のひとには他の仕事があるんですから。無茶言わないで下さい」
私がそう言うと、トミー様は、まるで死体なんて目に入らないかのように、それを踏み付けて私の前に立つ。私のほうが身長が低い所為で見上げるような格好になる。彼の、さらりと揺れるピンクの髪を不覚にも、きれいだな。と思う。
「なに、ボクの言うことが聞けないっての?」
「そう言うわけではなくて。ただ、トミー様もそのあたりを理解して下さいと言うだけです」
「お前ってほんとナマイキ。ボクに指図してんじゃねーよ」
「なんとでも。とにかく、仕事は仕事ですから」
私がそう返したら、トミー様は顔を背けて舌打ちをする。
そう言えば、なまえは気に入られてるんだ。と、前にセドルさんが笑いながら言っていた。それに私は、冗談じゃない。って首を振ったのを覚えている。私に近づいたひとが片っ端から死んでいくような愛情表現なんて、どう考えたって狂ってる。
「お前はボクとだけ話してればいいの」
そう言って、トミー様は私が手にしていた書類をひったくって歩いて行った。その後ろ姿を見つめながら、でも。と私は考える。それに慣れてしまった私も、相当狂っているんじゃないか。と。