来世なんかより今を僕といっしょにいてほしかったの

※孤児院時代


僕にはもう、どうする事もできないんだと思って涙が出た。嫌だ、と言う僕に、彼女はただ首を振るばかりだった。

「もう泣かないで、お願いだから」

地面に座り込んでいる僕と視線を合わせるように、彼女は膝を折った。白い指が、僕の顔に落ちかかる髪をそっとかき分ける。視界は相変わらず歪んだままだったけれど、彼女の目が僕の目を捉えているのがわかった。

「お願いよ」
「じゃあ……、泣きやんだら、なまえは僕とずっと一緒にいてくれる?」

右手の甲で涙を拭う。彼女は緩やかに微笑んでいた。言う事を聞かない子供をあやすような笑顔だった。僕の目から、また涙が零れた。一緒にいてくれないのなら、彼女の願いを叶える事に意味はないように思えた。

「それはできないの」
「どうして?」
「そういう決まりだから」
「どうして?」
「あら、決まりは守らなきゃ。そうでしょう?」

僕は首を振った。嫌だ、と、理解できない、という両方の意味を込めて。だって、どうして、誰が決めたのかも分からない馬鹿げた決まりの為に、僕は彼女と離れなければならないんだ?

「大丈夫。君はもう、大丈夫だから」
「大丈夫なんかじゃない……、全然、大丈夫なんかじゃ、」

彼女は、僕の唇に人差し指をそっと押し当てて、悪戯っ子のようにウィンクをした。僕はどうしようもなく怖くなって、彼女の手を握りしめた。嫌だ。離れて行ってしまう。僕から。永遠に。
しっかりと握りしめていたはずなのに、その手が離れた。もう一度掴もうと手を伸ばしたけれど、届かない。彼女の左の薬指の金色が、嘲笑うようにきらりと光った。
彼女は、見ているこっちが泣きたくなるくらい、寂しそうに微笑んで、静かに立ち上がる。そして、僕だけをこの監獄のような部屋に置き去りにして、彼女は行ってしまった。僕がどう足掻いても手の届かない場所へ。



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