ハッピーエンドは成り立たない

銃声が響いた。
基地でなまえを探していた俺は、屋外の射撃訓練場へと向かう。こんな朝早くから射撃の訓練をしようと考えるのは、彼女を置いて他にはいない。
訓練場に着くと案の定、そこには銃を構えて2発目の狙いを定めるなまえの姿があった。
最初に撃った銃弾は見事に致命傷を負わせるに至ったらしい。的の頭部の中央、そこに黒い穴が穿たれている。俺は静かにピストンを鳴らした。
その音に気付いて、なまえはさっと顔だけをこちらへ向ける。軍人としての癖なのか、銃を下げようとはしない。だが、音を出したのが俺だとわかると、彼女は安堵したように笑って銃を下げた。そして、流れるようにホルスターにしまうと、手をあげてこちらへ歩いてきた。

「おはよう。何か急ぎの用事でも?」

目の前で立ち止まると、俺を見上げて腕を組んだ。綺麗な色をした目が不思議そうに瞬く。

「いや、君の様子を見に来ただけだ。悪いな、中断させてしまって」

そう言って的を指し示すと、彼女は首を振った。

「いいの。的は外さないって知ってるから」

おどけたようにそう言って、なまえは左手で髪を掻き上げる。
視界で何かが光った。彼女の左手だ。正確には、その手の薬指に嵌められているもの。昨日まではそこになかった輝き。
ほんの一瞬、自分の目を疑った。だが、両目とも至って正常だった。彼女の薬指には確かに指輪が光っている。細く上品なデザインで、彼女によく似合っていた。
俺の視線が一点から動かないのを怪訝に思ったのか、なまえが視線を追う。その視線が自分の薬指に向けられていることに気づくと、彼女は心底うれしそうに笑って左手を顔の前に移動した。よく見て、と言わんばかりに手の甲を俺に向けて。

「祝福してくれる?」

穏やかに目を細める、俺の一番好きな笑顔でなまえは首を傾げた。
言葉を吐くのを躊躇った。なまえは知らない。彼女が思っている以上に、俺が彼女を想っていることなど。
知らなくていい。知る必要などない。湧き上がる諸々の感情を殺して、俺を見上げて微笑む彼女に笑みを返した。

「……勿論だとも」

頭の中ではいく通りものパターンが巡るが、そのどれも、俺となまえが幸せになれるものはない。
いっとう笑えるのが、俺が死ぬ事さえ、彼女の心に傷を残してしまうからそれができないという事。
彼女の肩越しに穴の空いた的が目に入って、俺は薄く笑った。まるで自分のようだ。どこへも逃れられず、ただ銃弾が身体を貫いていくのを待つだけの運命。

「おめでとう、なまえ」

自分への自嘲で歪んだ笑顔だったに違いないが、彼女は俺を見上げて、それは幸せそうに微笑んだ。



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