「あ、当たり」
8月の焼けつくような日差しの下で、俺となまえはさっきコンビニで買ってきた溶けかけのアイスと格闘していた。
前にジュース奢ってもらったから、今度は俺がアイス奢ってあげるよ。
いつだったかそういう約束を彼女としていて、それをコンビニにいるとき思い出した。
なまえは、憶えてたんだ、それ。って笑って、いちばん安いアイスをカゴのなかに入れた。当たり付きのやつ。
遠慮しなくていいって言ったのに、彼女はへんなところで律儀だ。
10分ぐらい歩いて公園に着いたときにはもう、アイスが崩れてしまいそうなくらいに溶けていて、袋から取り出すのが大変だった。
なまえはなんでもないことのようにやってのけたけど。
「嘘、当たったの?」
「俺ってさ、こういうのよく当たるんだよねー」
「いいなあ、うらやましい」
彼女は笑いながら言った。
「私、一度も当たったことないの」
「一度も?」
彼女は頷く。
「15年間生きてきて、一度も」
「まだ15年じゃない。これからの方が長いんだから、いつか当たるって」
俺がそう言うと、なまえはなぜか神妙な面持ちになる。
難しい数式でも解こうとしているみたいだ。
「そういうのって、きっと子供のときに経験しておかないと駄目なんだから」
「アイスの当たり?」
彼女は大きく頷いた。
それが万国共通だとでもいうように。
「大人になって当たってもさ、全然うれしくないでしょ? 純粋じゃなくなるっていうか」
「ああ、確かにそうかもねえ……」
蓋を開けっ放しにしていたサイダーをひと口だけ飲む。
それはもう、ただ甘いだけの液体に成り下がっていた。
大人になるっていうのは、きっとこんな感じなんだろうなと思えるような味。
「大人になるって、きっとそんな感じね」
なまえは俺を横目で見ながら言う。少し笑っていたみたいだ。
俺もそう思ったから、笑った。