その呼吸すら愛せてしまえそうだよ

「こんにちは」
「んー? あー、なまえだーおはよー」

クリーニング店のカウンターにぴったりとくっついていたジロちゃんは、私の挨拶に顔だけを上げると、まだ半分夢の中にいるみたいな顔と声で返事をしてくれた。
今日は日曜日の午前中で、彼は両親の経営するクリーニング店のお店番中。とは言っても、私がいつ来ても眠っているし、これじゃあ意味がないんじゃないかと毎回心配になってしまう。
だから私はこうやって、日曜の午前は暇さえあればクリーニング店に来ている。もう最近は、お客さんが来たら、私が寝ているジロちゃんを起こして対応してもらうシステムになってしまっていた。
まあ、私がお店に来るのには、多少不純な理由もあったりするんだけど。

「おはようじゃないってば、もうお昼過ぎだよ」

あまりにのんびりとしているジロちゃんがおかしくて、私は小さく笑った。
たぶん、またずっと寝ていたんだろう。コンビニじゃないから、ひっきりなしにお客さんが来るなんてことはないし、来たとしてもご近所さんばかりで、みんな、これじゃなまえちゃんが店番してるみたいなもんだね。と笑って、服を預けたり持って帰ったりする。

「えー、もうそんな時間?」
「また寝てたんでしょ」
「だって、昨日ずっと練習で疲れちゃったんだCー……」
「うそ。ゲームしてたんじゃない?」

私が笑いながらそう言うと、びっくりしたような顔になるジロちゃん。それがおかしくってまた笑う。

「すっげー、なんでわかんの?」
「なんとなく」
「うわー、バレちゃったかー」

なんて、照れたように笑うジロちゃんは本当にかわいい。

「部活しているんだし、早く寝なきゃだめだよ」
「わかってるんだけどね、それがなかなか……」

そう言って、ジロちゃんは頭を掻いた。それから、そう言えばさ、と昨日遅くまでやっていたであろうゲームの話を、きらきらした顔で話し出す。私はそれに相槌を打ちながら、ジロちゃんの笑顔を見ていた。
だいぶ話したあとで、ジロちゃんは大きなあくびをした。目がとろんとして眠そうだ。

「お客が来たら起こしてー」

そう言うなり、ジロちゃんはまた眠ってしまう。
すうすうと小さな呼吸。カウンターにぴったりとくっつくようにして眠る、彼の寝顔。やわらかい髪にそっと指を通す。
私もカウンターに両腕を乗せて、さらにその上に顎を乗せる。すぐ目の前にはジロちゃんの顔。子供のころから変わらないなあ。と思って笑ってしまう。
中学生になっても、こうやって普通に話ができるのが羨ましいって、友達が言っていた。みんな中学に上がったらもう話とかしなくなるって。私たちはそんなことがなくって、本当によかった。
ジロちゃんと話ができないなんて、私にとってはこの世の終わりと同じ。っていうのはちょっと大袈裟かも知れない。でも、きっと泣いてしまうくらいのショックは受けるだろう。
だから、どうかそんなときが来ませんように。
そう願いを込めて彼のまぶたにそっとキスを落とす。
小さなうなり声。ああ、起こしちゃったかなあ。でも、それはすぐに小さな寝息に変わった。
彼のお店番が終わるまで、このまま誰も来なければいいのに。なんて思うのは、やっぱり不謹慎だろうか。



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