午前から降り続いた雨は夕方になっても止む気配はなく、それどころか、今やバケツをひっくり返したような大雨になっていた。私は基地の窓から、滝のように地面に叩きつける雨粒をビーと並んで見ている。
「地球って大変だね。あっちもこっちも水ばっかなのに、おまけに空からも降ってくるなんてさ」
そう言いながら、バンブルビーは窓に手をつけて真っ暗な上空を覗き込んだ。
「でも、雨が降ってくれないと困るの。じゃなきゃどこも砂漠になっちゃう」
「サバク、ってなに?」
「砂と岩しかないところ」
「あー、それは確かにつまんなそう」
バンブルビーがこっちを向いて頷いたのと同時に、空に稲妻が走った。一瞬だけ明るくなる室内。雷鳴が轟いて、近くに落ちたのか地響きがする。
「わーーっ!! 今のなに?! 今のなに?!」
雷に驚いて格納庫の床にしゃがみ込んだバンブルビーは、恐怖のあまり私に抱きついてきた。結構な力で抱きしめられているせいで息が苦しい。抗議の意味で身体に回っている腕を叩いたら、バンブルビーは「ああ、ごめん!」とすぐに力を緩めてくれた。よほどさっきの雷が怖かったのか、力は緩めたものの腕を解く気はないらしい。
「今のは雷。雲の中で静電気が発生して、抱えきれなくなった分が放電されてああなるみたい。室内にいれば大丈夫だから」
腕をやさしく叩くと、彼は青い目で不安そうに私の顔を覗き込む。
「ほんと? ほんとにほんと? ウソじゃないよね?」
バンブルビーがあんまり必死で聞いてくるものだから、笑うのは悪いと思いながらもつい笑ってしまう。案の定、彼は怒ったような声で反論してきた。
「なんで笑うんだよ! 僕本気で怖かったんだからね!」
「ごめんごめん、そうだよね。ここにいれば本当に大、」
私の言葉を遮るようにまた雷が落ちる。バンブルビーの絶叫と一緒に私を抱きしめる力も強くなった。彼を落ち着かせるために腕で抱え込むようにして頭部を撫でる。
心なしか、さっきよりも光と音の間隔が近い。停電になるかもしれないと思った私は、オプティマスに知らせに行くために、バンブルビーの腕から抜けようと試みた。それに気づいた彼は、行かせまいとして必死に私を腕の中に押し止めようとする。
「ちょっとナマエ、僕をほっぽってどっか行くつもり?! この薄情者ー!」
「停電になるかもしれないって、ちょっと伝えに行ってくるだけだから!」
どうにかして抜けようとしたけれど、人間とロボットでは力の差が歴然すぎてどう足掻いても無理そうな気がしてきた。さてどうしたものかと考えていると、バンブルビーはさっきよりもさらに必死で、これならいいでしょ! とでもいうように解決策を提示してきた。
「なら僕通信できるから! 代わりに伝えるから! 頼むから一緒にいてお願い!!」
こんなに必死になって頼み込んでくるなんて、本当に雷が怖いのだろう。代わりに伝えてくれるなら私も文句はないし、こんな状態のバンブルビーを置き去りにするのは気が引けたから、妥協案が見つかって正直ほっとしている。
私がどこかへ行ってしまう心配のなくなったバンブルビーは、腕を解くとさっそくオプティマスと通信を始めて、停電になるかもしれない旨を(ものすごく早口で)伝えてくれた。それから、これで文句はないだろう、とばかりにちょっと偉そうな顔で私を見る。お礼を言おうと口を開いた瞬間、強烈な光と共に轟音が響いた。バンブルビーが叫び声を上げて抱きついてきたのと同時に、室内が真っ暗になる。少し遠くで、オプティマスたちの声が聞こえた。
彼は、さっき勢いで抱きしめた私を、ずっとやさしく抱きしめなおして、床に座り込んだ。
「もう朝までこうしてていい……?」
その心細そうな声に、私は少しだけ笑いながら「もちろん」と答えて、身体を包むバンブルビーの腕をやさしく撫でた。明かりはまだ点きそうにない。