「貧乏クジ引いちゃった気分よ」
何かを話し合っているロボットたちを見ながら、隣に座るサリに愚痴をこぼした。私の足元には、数分前に踏み消した煙草の吸い殻が、ほとんど元の長さのまま転がっている。警部から突然、このロボット部隊のお目付役に任命されて、その理不尽さを紛らわせようと吸い始めたけど、そそくさと逃げ出す警部と入れ替わるようにサリが来たので、不本意ながらも役目を終えることになったのだった。
「まあまあ、いーじゃない! ここに来て仕事がサボれるんだと思えば」
ばかでかいソファに座って足をぶらぶらと揺らしながら、サリは満面の(多少よろしくない)笑顔を私に向ける。
「私、ナマエよりみんなのことに詳しいから、わかんないことがあったらなんでも聞いちゃって!」
そう言って胸を張るサリに、ありがとうと言って頷くと、話し合いが終わったのか、彼らのなかで一番小さな黄色いロボットがこっちにやってきた。えっと、名前……。そう思っているのが顔に出ていたらしく、黄色の彼はちょっと不機嫌そうな顔をした。ロボットが今どんな心情かわかるなんてよく理解できないが、実際にわかってしまえる。さらに言うと、彼らの感情表現は私たち人間と遜色ないレベルだと思う。
「”名前なんだっけ?”って顔だね。バンブルビーだよ、バ・ン・ブ・ル・ビ・イ」
私が名前を覚えていなかったのが不服らしいバンブルビーは、自分の名前をわざとゆっくりと発音して強調した。これで覚えられるでしょ、とでも言うように。
そんな嫌味っぽい態度をとられて少し頭にきた私は、彼の言葉に軽く頷くだけにしておいた。そんな私に、バンブルビーは”よろしい”というように尊大に頷き返すと、隣に座っているサリの方へ顔を向ける。
「サリ、オプティマスとラチェットがその鍵のことについて聞きたいことがあるんだって」
そう言ってバンブルビーが後ろを指し示すと、サリは「わかった!」と言うが早いか、ソファから飛び降りて走っていってしまった。
さっきの態度のことがまだわだかまっている私は、彼と2人になるのを避けたいがために、サリの後を追いかけようとソファから立ち上がるつもりでいた。それなのに、バンブルビーが私の前に立ち位置を変えたせいでそれができない。
どうしたものかと思っていると、彼は私の顔から足元へと視線を移した。そして、そこに転がっている煙草を指差して首を傾げる。
「それ、なんで捨てちゃったんだい? ファンゾーン警部が行っちゃってから火を付けたのに、サリが来たらすぐ捨てちゃったでしょ」
てっきり”ゴミを捨てるな”と言われるものだとばかり思っていたから、正直驚いた。まさか、見られているなんて思ってなかったし、ましてや、そんなことを聞かれるとは思っていなかったからだ。
バンブルビーの”答えて”というような目が私を見つめている。さっきの態度のことなんてすっかり忘れて、私は彼の質問に素直に答えた。
「まあ……、身体に良いものじゃないし。サリには尚更」
まだ呆気にとられたままの私がそう答えると、バンブルビーは納得したように頷く。
「なるほど、だから捨てちゃったんだ。サリのために」
「ええ……、まあ、そういうことになる、のかな」
私が曖昧に返事をしたら、彼はくすっと笑った。
「僕さ、キミのこと、最初はおっかない人かなーと思ってたんだ」
不機嫌そうな顔してたし。彼はそう言ってまた笑うと、私の隣に腰掛けた。それから、私をじっと見つめて、陽の光を思わせる明るい声で福音を告げる。
「ナマエのこと、好きになれそうだよ」
そう言って私を見つめる、バンブルビーの青い目を見つめ返しながら思った。彼はちゃんと私を見ていてくれる。”好きになれそう”と思うのに、他に理由なんて必要なかった。
「あら、奇遇ね。私もよ」
空に瞬く星のような彼に、そう告げて微笑んだ。