ひとつだけ願うこと

いつものように僕らの様子を見に基地にやって来たナマエは、今日はいつもと違って、オプティマスの挨拶に上の空で応えて横を通り過ぎると、ソファに座っている僕の隣に腰を下ろした。
いつもだったらこのあと世間話が始まるんだけど、ナマエは組んだ両手を膝の上に乗せてじっと僕を見つめている。彼女は小さく唇を噛んでいて、苦しそうな顔をしていた。そんな顔をしている理由を、なんとなく、僕はちゃんと訊いてあげなきゃいけないような気がして口を開いた。

「どしたの? そんな顔しちゃってさ! ……なにか嫌なことでもあった?」

そう言って首を傾げると、ナマエは一層強く唇を噛んだ。その両目からは涙が溢れそうで、今は意志の力だけでなんとか堪えているように見える。お互い何も言わずにただ視線を繋いだまま、少しの時間が経った。ナマエは目を伏せて、息を細く長く吐き出した。それから、「あのね」と今にも消えてしまいそうな声で呟くと、ゆっくりと僕に視線を合わせる。

「人間が、……人間以外に恋をするのって、間違ってると思う?」

ナマエはまた泣き出しそうになりながら、小さく首を傾げた。膝の上で組んだ両手が少し震えている。ナマエは僕の答えを待とうとはしないで、言い募るように言葉を並べていく。

「だって私、あなたのことこんなにも好きなの。あなたになら心臓だってあげられるくらい。……だから、間違いなんかじゃないよね?」

僕を見上げるナマエの瞳が不安そうに揺れた。きれいな色をした瞳が翳って、彼女は顔を伏せてしまう。その口から、ぽつり、と言葉がこぼれ落ちた。

「”おかしい”って言われたの」

そう言ったきりナマエは黙ってしまって、誰からそう言われたのかまでは言おうとしなかった。でも、きっと職場の同僚とかそんなところだろう。なんとなくだけど、そんな気がした。

「おかしくなんかない!僕もナマエのことが大好きだよ。僕がロボットでキミは人間だからとか、そんなこと全然関係ないって思えるくらいにね。だから大丈夫!おかしくなんかないし、間違いなんかじゃないよ」

まだ膝の上で微かに震えている彼女の手にそっと触れた。僕の手が触れるのと同時に、ナマエは伏せていた顔をゆっくりとこっちに向ける。その目が湛えていた涙が、瞬きと同時に白い頬を伝って僕の手に落ちた。この液体の温度も意味もわからなくても、それを拭ってあげることなら僕にだってできる。

「それに、もしそれが間違いだとしてもそんなの関係ないね。だって、僕がナマエを好きな気持ちは絶対に間違いなんかじゃないんだから」

僕を見上げるナマエの目にゆっくりと涙の膜が張っていく。

「だから、あんまり悲しそうな顔しないでよ。ナマエを笑顔にしてあげたくて傍にいるんだからさ」

そう言って笑うと、ナマエは、ありがとう、といっぱいになった涙をこぼして微笑んだ。
僕はそんな彼女の目元の輝きをそっと指で拭って、明日は彼女の笑顔が見られますように、と静かに願った。


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