どうかどうかしあわせでありますよう

ナマエの口から吐き出された煙が、風に流されて消えていくのを、僕は横でじっと見ていた。彼女はというと、煙を見つめる僕を横目で見ていて、ときどき可笑しそうにくすっと笑う。

「そんなに気になる?」

先端が赤く燃えている細い棒みたいなものを口にくわえて、また煙を吐き出したナマエは笑いながら首を傾げた。

「それさ、タバコっていうんでしょ」
「うん、そう」

ナマエは笑顔のまま頷いた。

「身体に悪いって、前に言ってたよね」
「ええ」

ナマエはまた頷く。

「”不良”ってやつが吸うんだ、って、ファンゾーン警部が」
「あら、そう」

ナマエは本当に愉快そうに笑った。

「何かから逃げたい人も吸うんだ、とも言ってたよ」

ナマエは答えない、その顔から笑顔が消える。
口にくわえていたものを指で挟んで地面に落とすと、靴の先を使って踏み潰した。上着のポケットに手を突っ込んで俯いていた彼女は、すぐ後ろの壁に寄りかかって、ゆっくりと顔を上げる。まっすぐ前を見つめるその顔は、今にも泣き出しそうなのを、唇を噛んで必死に堪えているように見えた。

「ナマエはさ、何から逃げたいんだい?」

噛んだ唇が震えている。よっぽど強く噛んでいるみたいで、少しだけ赤い色が滲んでいた。

「僕、一緒に逃げてあげようか」

ナマエはゆっくりと僕の方に顔を向ける。唇を噛むのをやめた彼女の目から、堪え切れなくなった涙がぽたぽたと溢れる。
僕は立ち上がると、彼女の正面に移動する。膝を折って目線を合わせて、溢れる涙をそっと指先で拭った。彼女の目が瞬きをする。涙が一筋、白い頬を伝った。

「ナマエがそうしたいならさ」

すごく苦しそうな顔だった。涙がまた溢れて、唇を噛んだ。ナマエはポケットからさっと両手を出して僕の首を抱きしめる。彼女の身体は微かに振動していて、僕の首筋を涙が伝う。その小さくて壊れそうな身体をそっと抱きしめて、僕はいつの日か、彼女が笑いながら首を振ってくれるのを願っている。


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