仕事が終わって何気なくスマートフォンの画面を見たら、おびただしい数の着信とメールの通知。あまりの数に目眩がする。しかも、最新で送られてきたメールは、「電話もメールも返してくれないので、今からそっちに向かいます」という内容だった。普段メールで敬語なんか使わない彼がそれを使うということは、あまり心中穏やかじゃない証拠だ。送信時刻を見ると今から20分前のものだった。20分もあれば、彼がここに到着するには十分だろう。
同僚が次々と帰り支度をして席を立つのを見て、ため息をつきながら私も席を立った。
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「ナマエ遅いよ! 1時間前には仕事終わってるはずじゃん! 電話もメールもしてくれないしさ! そんなに仕事が忙しいわけ?」
助手席のドアが自動で開いて、ファンゾーン警部と同じ黄色の車から怒ったような声が流れ出す。そのセリフに、あんたは彼女かなんかか、と言いたくなる。「ほら早く乗って!」と、クラクションを鳴らさんばかりの勢いで急かされた私は、彼だったら本当にクラクションを鳴らしかねない、と慌てて助手席に滑り込む。私がシートベルトを締めたのを確認すると、車はやや荒くスタートを切った。
「ここんとこ1週間ずーっと、1週間だよ?! ずーっと音信不通! 僕がどれだけ寂しい思いしたかわかってる?!」
「……1週間くらい我慢しろ、って誰かに言われなかった?」
「みーんなに言われたよ! いや、アイアンハイドは言わなかったな。……って、ちゃちゃ入れないで!」
「ごめん。でも、あなたたち色々と忙しそうだから」
まあ、そのせいで私たちも破損した建物の修繕の手配とかでてんやわんやなんだけど……。確かに1週間音沙汰なしは悪かったかな、とほんの少しだけ罪悪感が芽生える。
「だからってこの1週間メールも電話もナシとかひどいよ! ”どう? 元気?”くらい聞いてくれたっていいじゃん!」
「それであなたは、”知ってると思うけど元気だよ。仕事増やしちゃってごめん”って返してくれるワケね」
「……全っ然笑えない。そーやって皮肉るの誰に似たのさ?」
「あなただと思うけど」
そう言ったらバンブルビーは「あ、僕かあ!」と言ったあと、すかさず「ってちょっと! バンブルビーくんは素直ないい子だから皮肉なんて言わないんですー!」と、見事なノリツッコミを披露してくれた。
私が笑っていると、バンブルビーは静かに路肩に駐車する。それからやたらと真剣な声でひっそりと喋り出した。
「知ってる? このままキミを家に帰さないって方法もあるんだ」
「いやそれ犯罪だから」
「そうなんだよねえ〜。だからしないよ! したいけど!」
私が冷静にツッコミを入れると、さっきの真剣な声から一転して、いつもの陽気な調子に戻る。バンブルビーは、また静かにスタートを切って車線に入った。
気づかないフリをしていたけど、私の家までの道のりを彼はわざと遠回りしている。本来なら、もうとっくに家に着いていいはずの時間だ。こうやって、少しでも私といる時間を引き伸ばそうとしているバンブルビーがかわいくて、非番の明日1日を彼のために使おうと思った。
「じゃあ、明日は1日付き合ってあげるから」
「ほんと?! 絶対だよ? 絶対だからね!」
”約束破ったら許さないから!”とばかりに念を押してくるバンブルビーに、ハイハイと笑いながら返事をして窓の外に目を向ける。飛ぶように過ぎる景色の向こうで、一番星がきらきらと輝いていた。