「ねえ、ナマエ。僕のこと好き?」
僕より少し先を歩く背中に問いかけると、ナマエは立ち止まって「当たり前でしょ」と笑いながら顔だけで振り返る。流れるように顔を戻すと、彼女はまた歩き始めた。
「そっか」僕はその答えになんだか納得できないまま呟いて、彼女の後ろを歩き始める。僕がほしかったのは、イエスかノーかの答えじゃなくて、もっとちゃんとした、”バンブルビーが好き”だったのに。
「僕のこと、どれくらい好き?」
「どれくらい? たとえば?」
「うーん、そうだなあ……、世界でいちばん、とか、ありとあらゆる生命体の中でいちばん、とか」
「なるほど、そういう感じ。……なら、全宇宙でいちばん」
また今度も、前を歩くナマエは僕の思っているような答えを言ってくはれない。僕はどうしても、”僕って愛されてるんだ!”と安心できるような答えがほしくて、しつこいのはわかっているけど、また彼女の背中に質問を投げかける。
「ねえ、ナマエ。ナマエは僕のこと、本当に好き?」
ナマエは足を止めると、怪訝そうな顔で僕を振り返る。その表情からは、ほんの少しだけの煩わしさが見てとれた。胸のあたりがちくりと痛む。
「どうしたの? 私、さっきからそう言ってるじゃない」
そう言って、ナマエはくるりと踵を返して歩き出す。”もう質問はお終い”髪を揺らしながら歩く彼女の背中がそう言っていた。僕はどうしようもなく寂しくなって、振り向いてほしい一心で言葉を吐き出す。
「だってナマエ、僕のことちゃんと”好き”って、言ってくれないからさ」
不貞腐れたようにそう言うと、少し先を歩いていた彼女がぴたりと足を止める。その背中が強張っているように見えて、”怒らせちゃったかな”と、僕の頭を不安が過ぎった。彼女はゆっくりと振り返る。
「じゃあ、どう言ったらいいの? あなたの声を聞くだけで愛おしさで胸がいっぱいになるとか、あなたが笑いかけてくれるだけで泣きそうなくらい幸せだとか、あなたが抱きしめてくれるだけでもう死んだっていいような気持ちになるとか、あなたのことが好きで好きで大好きでもうどうしようもないくらいなのに素直に言葉にできなくて不安にさせてごめんって、そうやってなにもかも正直に言ったらいいってこと?!」
振り返ったナマエは、顔を真っ赤にしながら怒涛の如く一気に捲し立てた。肩で息をする彼女は口を引き結んだまま、大きな目でじっと僕を見つめて返事を待っている。僕の口がうれしさのあまり緩んでいくのを見たナマエは、”こんなに恥ずかしいことを言わせておいて!”というような顔をすると、素早く踵を返して歩き出した。いつもより大きく髪を揺らして前を歩く彼女の背中を、僕は愛おしさで死んでしまいそうな気持ちで見つめている。