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『……リリーナ……もう一目……グフッ……』
『ヘクトル様っ!!』
『……ヘクトル様……』
『お父様……あぁ……! どうして……どうして……!』
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「……嫌な夢」
はぁ、と思わずため息を漏らした。あまりにもリアリティを孕んだそれに頭痛を感じる。
こんな夢を見たいわけじゃないんだけどな。小さくひとりごちって、あたしは体をゆるりと起こした。
顔も知らぬヘクトル卿が敵の刃にかかり命を落とす夢。場面が切り替わり、それを告げたのか、リリーナが泣き崩れていく。
悪夢だった。否、悪夢と形容するのも憚られる程の、ひどい夢だった。顔も知らないヘクトル卿が目の前で命の灯火を消していく……夢だというのに、恐怖が拭えない。
自身を落ち着けさせるために胸元のペンダントを握りしめる。大丈夫、大丈夫、所詮は、夢。
「……あ」
じわり、とペンダントが熱を帯びる。手でペンダントを掬って見てみると、ペンダントの白い石が淡く淡く発光していた。
リューガ、と声をかけてみるとその光は少しだけ光を強くする。やがてその光は形を成して──。
「リューガ……」
《おはよーさん》
名前をもう一度呼んでみれば、ペンダントの光が人の形になる。光が色を持って、現れたのは半透明の浮遊霊リューガ。
本当に、彼は何者なのだろう。
あたしには分からないが、彼はあたしを貶めたいつもりではないということはわかる。彼の言葉であたしが破滅したことは、一度もなかったから。
彼はあたしや、祖国の隣国の王女たちにしか見えない。それがなぜかは分からないけど、それでよかったとも思ってる。
彼が現れだしたのがいつだったかは忘れたけど、彼がいた時には既にあったこのペンダントはなんとなく手離せなくて、でも聞く勇気はなくて、ずっとこのままいた。
実体を持たないリューガはふわりと宙に浮き、あたしの顔を覗き込む。
《随分と魘されてたみてーだけど? 縁起の悪い夢でもみたか?》
……相変わらず勘の鋭いやつだ。その鋭さであたしが危険な時、助けてくれたりするのだけれど。
父さんに殺されかけたときも逃げる準備をするよう促したり、エレブに来たばかりのとき山賊に後ろを取られてたことを注意してくれたのもリューガだ。……彼がいなければ、あたしはとっくに死んでいたのかもしれない。
こうやって、悪夢を見たことまで言い当ててくる。本当に、なんなんだ、こいつは。
「……リリーナが、泣いてた」
《……》
どうせ隠しても、あたしの心内を読めるリューガに隠し事なんてできやしない。半ば諦めてぽつりぽつりと言葉を落とせば、じっとあたしを見ながら話を聞いてくれる。
お父様、お父様、ずっとそう叫んでいたリリーナ。あまりにもリアルで悲しくて、夢の中なのに耳を塞ぎたくなった。
「……正夢にならなきゃいいんだけど」
《そうだな……》
それ以上彼は何も言わなかった。代わりに実体のない手であたしの頭を撫でる。感覚なんて伝わってこないけれど、その行為が嬉しくて思わず笑みをこぼしてしまった。
それでも不安は消えない。もし正夢になったらどうしよう、なんて縁起でもないことを考えてしまう。もし、もし。
……よし。
「うじうじしてても、仕方ない、……早く、行かなきゃ」
正夢になりそうなら、正夢にしなければいい。あたしが動くことで何かが変わるのなら、あたしが変えればいい。
はやく、はやく進め、あたしの足。小さく心の中でつぶやいて立ち上がる。それを見届けたらしいリューガは、その赤い相貌を細めていつの間にか消えていた。
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