
「どれくらいいるの? それと……将の居所の詳細を」
「ご心配なく、全て把握済みです」
「……流石」
たまにこの忠誠心から来る働きがおかしな方向へ向かっている気がしなくもないけど、仕事の正確さは見事なものだ。なにせ、あたしが言う前にあたしのしてほしいことをやってしまうんだから。
エリウッド卿と扉の間を縫うように入ってきたラウロに、耳打ちで聞かせられるその数に軽く舌打ち。
……随分と多いな。あたしとラウロの二人でどうにかなる数なのかな。なんて考えつつ髪を整える。困ったものだ。
「じゃあ、行こうかラウロ」
「仰せのままに」
読んでいた本を閉じ、一歩踏み出す。こつん、と足音が響いた瞬間、エリウッド卿がハッとしたようにあたしを見る。
何か、おかしなこと言ったっけ? 言ったつもりはないんだけど。エリウッド卿は慌てた様子で、扉に向かうあたしを引き止める。
「お待ちくださいリュナ王女! いったい何をしに行くおつもりで……!?」
「何って……賊討伐ですけど?」
伝えてみれば、エリウッド卿の目がまん丸と見開かれる。……そこまでおかしなこと言ってないでしょう! 思わず叫びそうになったけれど、何も言わずに黙る。
それに、今のあたしは昔のあたしじゃない。戦えるだけの力はある。だったら、戦えるんなら。戦って、被害を少なくすることが、あたしの仕事だ。ここの皆さんにお世話になってるあたしの、せめてもの恩返しだ。
どうせ今のあたしは国から逃げた元王女っていう肩書きしかない。あたし一人傷ついたりいなくなったりしたところで、このフェレの地にも、祖国ファヴァーにも大きな損失はないのだから。
「駄目に決まってるでしょう!? あなたを戦場に出すなんて、そんな──」
「……エリウッド卿、あたしはもう力無き稚児ではありません。
あなたが戦えない今、戦えるあたしが戦わないと、多くの被害が出てしまいます。あなたや、あなたを守ろうとする騎士のその力になりたいだけです、どうかお許しを」
「ですが……!」
エリウッド卿の言葉を無視するのは気がひけるけども、仕方がない。彼の言葉を受け流し、扉の向こうへと出た。
賊が暴れているのがよく聞こえるからか、部屋の中にいた時よりもいろいろな音が聞こえる。賊の罵声、金属がぶつかり合う音、騎士の怒号。くらくらする。
なによりもまいるのが、この争いを引き起こしているのが人間だということだ。異形の化け物なら、どれほどよかったか。否、よくはないけど、戦争のことを思い出さずに済んだというのに。
……そうだね、人が相手だと言うのなら。
「……ラウロ」
「どうかなさいましたか」
「難しいとは思うけど、……なるべく殺さないようにお願いね」
「……仰せのままに、マイロード」
一瞬だけ、ラウロの表情がこわばった気がする。そりゃあ、そうか。主人──あたしに言われればそれを完遂するだろうけど、彼は基本的に、自分の敵は叩き斬って殺す。それを止められるのは、なんとなく複雑な気分だろう。
……彼がそうなってしまった理由はきちんとあるし、それを分かってて命令するあたしもあたしだけれど。
「……リュナ! 私も戦えるの、だから一緒に戦わせて!」
「馬鹿を言ってはいけないよリリーナ。お前にもしものことがあったら、私はへクトルに顔向けが出来ん」
「お父様に? で、ですが……」
あたしの後ろでリリーナとエリウッド卿の声が聞こえる。そうだね、リリーナは戦わなくていい。
きっと同い年だろう。だけど彼女にこの世界は早すぎる。父親と仲が良いのなら、尚更だ。傷ついて帰ってきた娘を見るのが楽しいはずがない。
ヘクトルというのは、リリーナの父親だ。リキア一の大都市、オスティアを治める方。エリウッドさんとは古くからの知り合いで、共に戦場を駆けたこともあるらしい。
……悲しいものだね、争いは。
新たな絆を紡ぐこともあれば、こうやって女の子を巻き込まなきゃならないんだから。
もっとも、あたしの場合は巻き込まれるのじゃなくて、巻き込まれにいくんだけど。それに、戦争に巻き込まれるのはこれが初めてってわけじゃない。無論、その頃は戦えなかったけど。
「大丈夫だ。ロイも近くまで戻って来ているはず。それまで持ちこたえれば何とかなるだろう」
「ロイがいるの? ……なら、せめてそれまでね、行くよラウロ」
篭城戦、と言えば聞こえはいいけれど、その実あまり楽しい戦闘ではない。いや、戦闘に楽しいも何もないけれど、あたしもラウロも多分あまり得意ではない。
何せ、屋外とは違って剣や槍を振るう幅に制約が出る。あたしは魔法も使えるからなんとかなるけれど、ラウロはそういうわけにもいかない。
……まぁ、それでも強いのがラウロだ。心配する必要はないのだろう。
「マリナス! ロイたちの元に使者をやり急を知らせろ!」
「は、は、はいっ」
エリウッド卿のそんな言葉を背に受けながら、あたしは城の入り口へ向かって歩みを進める。よくない予感を胸に秘めて、あたしは自分の持つ剣をぎゅっと握った。
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