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「みんな聞いてくれ。
 俺はフェリア連合王国に向かうことになった」


 スミアへの興味が一瞬だった。なんだか味気ない気がするのだが……まぁ相手は一国の王子だから仕方がないかもしれない。というか、クロムだから仕方がない。


「フェリア連合王国?」


 と、ルフレ。記憶喪失ゆえに覚えていることが少ないのだろうか。それに答えたのはスミアだった。


「イーリス聖王国の北にある、少し変わった……軍事大国です」
「えーと、地図……」


 フィシカが体を探る。そして地図を出したのは──。


「なっ!?」
「ふぉッ!?」
「……っ!?」


 露出してある胸元から。別にいかがわしい出し方でもなかったのだが、思春期男子達には刺激が強かったのかもしれない。因みに男性陣の叫び声は上からヴェイク、クロム、ルフレだ。
 ルフレの若干頬を赤らめながら目線を明後日の方向に向け、クロムはなんだか鼻から口にかけてを手でおおっている。ヴェイクにいたっては暴れまわっていて、正直迷惑だ。


「あれ、男性陣何してんの?」


 因みにフィシカにはまったく悪気はない。悪気がないがゆえに質が悪い。


「お兄ちゃん……」
「クロム様……」
「そんな目を向けるな!」


 哀れみの目を向けられたクロムは顔を真っ赤にしながら手をバタバタとさせる。そこに威厳なんて存在しない。


「そ、それより、フェリアの位置を!」


 ルフレはなんとか持ちこたえたようで体勢を立て直す。
 フィシカが広げた地図を見るように前屈みになった。


「そうね、ここが多分今いる場所で……こっちがフェリア」


 指を中心辺りから北の方向へと動かしていく。さっきあんなのを見たせいかその指の動きでさえ女性のものにしか見えず困惑。
 だがしかしルフレは負けない。懸命にその指の動きを追っていた。


「と、とにかくだな。
 イーリスだけでは、あの化け物に対処できない。だから、フェリアに助力を求めにいく。
 本来なら姉さんが行くところだが、今、国を離れるわけにはいかない。この自警団からも名乗りを上げた奴を連れていく」
「あ、じゃあわたしもいく!」


 先陣を切って出たのはリズだった。
 流石クロムの妹というか、行動的な少女である。


「当然、俺様も行くぜ! クロムだけじゃ荷が重いだろうからな!」


 やはりこの男、ヴェイクは一国の王子になんとも失礼な言い分だ。しかしクロムは気にしていない。少しは気にしろ。


「僕も頑張ろう……」
「……はぁ」


 スミアが小さなため息をつく。そのため息の前に何かが聞こえたような感じがしたのだがよく分からない。
 見兼ねたクロムが口を開いた。


「……スミア、お前も来るか?」
「! クロム様……!
 でも、私……まだ自分のペガサスさえ……」


 ということはスミアは天馬騎士だろうか。
 そんなスミアを見てフィシカは言う。


「私が言うのも変な話だけどさ、気負わなくてもいいんじゃない?
 それに見てるだけでも戦いの勉強になるわよ、ペガサスとは違うけれど見に来るのもいいと思うよ」
「フィシカさん……」


 ね? とクロムに視線を向ければクロムは頷き返す。
 それを見たスミアの顔にはほんの少し笑顔をこぼした。


「いいんですか……?」
「ああ、でもなるべく俺の側から離れるなよ」
「はい……! 約束します!」
「……クロムってスミアのこと?」
「?」


 何もわかっていないのは流石に酷い。スミアが悲しげにしゃがみこんでしまった。
 ルフレが頭を撫でている。なんだかシュールな光景になった。


「クロム最低ー! 乙女の気持ちくらい分かってやれー!」
「そうだよお兄ちゃん!」
「いえ……いいんです……」
「えっと……スミア、僕には君が大丈夫には見えないんだけど」
「す……すまん……?」


 非難ごうごうのクロムは少したじろぐ。
 ついでに超余談だがヴェイクはまだ暴れまわっている。煩い。


「そんなんだと一生彼女出来ないわよ!
 ていうかあれね、クロムって恋愛に興味無さそう」


 その言葉を聞いたクロムの中で何かが吹っ切れた。ビシッという効果音がつきそうな表情でクロムが切り返す。


「興味無くはない! 俺は──……っ」
「え、お兄ちゃん好きな人いるの!?」
「クロム様……?」
「へえ、剣一筋だと思ってた」


 リズ、スミア、ルフレから眼差しを向けられてハッとする。あぁ、フィシカにハメられた。
 ふとフィシカを見たら妖しい笑顔。それも満面の。


「へぇぇぇ……誰ぇ? 私すっごく気になるなぁ」
「う……煩い!!」
「名前と金さえ払ってくれたら手伝うわよ?」
「一国の王子から金をせびるのか!?」
「義賊以外の私は何でも屋だもーん」


 話の論点がずれている。これを感じ取ったクロムはいい放った。


「と、兎に角お前も行くんだろ? 早く準備を……!!」


 クロムは顔を真っ赤にしながら逃げるように走っていった。
 フィシカは楽し気に一本の短剣を持ち出して笑って呟く。


「恋に恋するお年頃……かな?」


 ふふ、と笑顔を溢して、準備をするためにフィシカも部屋から消えていった。
 残されたリズ、ルフレ、スミアついでにヴェイクはフィシカの去った方向を見て苦笑いを浮かべる。


「クロムの恋愛対象って……」


ルフレはそれ以上口にせず、ただその苦笑いを続けていた。



自警団との出会い
(これから楽しくなりそうだわ!)
Dear, My Doll.